第9話 修道騎士、合格
今日もぼくは闘技場にいる。
修道騎士の認定試験のためだ。
認定試験といってもまだひとり立ちじゃなく、修道騎士の先輩の討伐についていく従騎士扱いなんだけどね。
先生との一対一の訓練にだいぶ慣れたから、ミスリルが武器を魔術操作する形で加わり、乱戦の模擬戦がはじまった。
投槍、長槍の周囲からの連続挟撃。
ぼくは母上が樹木の精霊だから、昔なら索敵が使えてた。
でも、いまは隷属の首輪で魔力の大半が封じられてしまっていて、感覚をつかむまで人よりも時間がかかってしまった。
でも、鋼鎧蛇との訓練を通して、生き物の気配に敏感になったと思う。
ミスリルの繰り出す魔法攻撃は、洗練されて鋭い軌道でくるけど、彼の呼吸音や衣擦れ、目線から攻撃予測はたてられる。
真後ろでさえなければ、鋼鎧蛇も武器類も躱すのはさほど難しくなくなった。
ただ、訓練だからすべて木製武器だけど、速度が速いので当たると相当痛い!
鋼鎧蛇が三体、追加される。
「見送るな、急所を即座に貫け! 二度めの機会があると思うな!」
地面に突き刺さる無数の投槍を転げてかわしながら、食いついてきた蛇に布袋をぶつける。
蛇の鼻面にぶつかって、茶色の煙があがる。
たちのぼる薬草の匂いで、蛇の挙動が乱れた。
「考えたな」
鋼鎧蛇がさらに三体追加。
さすがに疲れて、地面に爪先が突っかかってしまった。
転びかけたところに鋼鎧蛇が巻きつく!
「ギブアップか、小僧?」
鬼!
叫びたいけど声が出ない!
いや、もともと諦める気なんかないけど!
骨がきしむ。
胸が締め付けられ、息が押し出される。
ぼくを丸飲みしようと首を持ち上げたところで、蛇がクシャミしだした。
ぼくは身を翻して着地。
「スパイスが効いてますね」
ミスリルが食レポみたいな感想を言った。
布袋は、ぼくの特性の対鋼鎧蛇兵器。
風上で使ったから他のも踠きながらのたうち、うねうね暴れはじめた。
「なるほど。蛇の嫌いな蛙毒を匂いに紛れ込ませたか」
さすが先生! 正解です!
ぼくは動きの鈍くなった鋼鎧蛇の鱗の隙間を探し、ひとつずつとどめを刺してから解毒薬を飲んだ。
「……ようやく及第か」
先生が振り向きもせずミスリルに聞く。
「それ以上ですよ。囚人でなければ、だいたいの任務は単独で任せてもいけるでしょう」
「では、あとは頼む」
先生は修道騎士の証の仮面をぼくに渡し、そそくさと外出していった。
銀色で目鼻の穴もない、つるりとした面だ。
でも、よく目を凝らすと内側の額辺りに小さな魔方陣がある。認識阻害の基盤とかかな?
従騎士は見習い期間中、先輩騎士の足手まといにならないよう、現場では最低限の自衛能力が必要になる。
いざというときのため従騎士の仮面は認識阻害の効果を持っていて、安全なところから先輩の魔物討伐を見学できるんだって。
「仮面をくれたってことは……」
「ええ、合格したので外出許可が出ます。世間知らずのままでは任務に差し支えるので。
当面は、エギルの夕食買い出しを手伝ってあげてください」
「やったあ!」
ぼくは嬉しくて、すぐに仮面をつけてみた。
不思議だな、この仮面。
金属みたいな銀色で穴なんかないのに、顔につけると景色は見えるし呼吸も普通にできる。
横ではミスリルが、武器に手をかざしてアイテムボックスに手際よくしまっていた。
武器が生き物みたいに空中に整列して、彼の袖口に吸い込まれていくのがちょっと楽しい。
昔見た大道芸人の手品みたいだ。
「ねえ、ミスリル。先生はいつも多忙そうなのに、わざわざ時間を割いてまでいびりに来るほど、ぼくが憎いのかな。
前王派の墓場ってことは、父上に尽くして家門を滅ぼされたひとたちだ。ぼくが憎いひとだっているよね?」
ぼくはこの前の、エギルの冷たい態度を思い出していた。
ミスリルは、眼鏡を外して鼻の頭をかき、
「院長をわかってないですね。修道院では討伐報酬が一番の収益になるからですよ。
優秀な修道騎士が育てば、高ランクの依頼が受けられて、報酬額が跳ね上がりますから」
また眼鏡を戻して真顔で言った。
ミスリルはいつも事務的で、淡々とした人だ。
だからこそ、気休めじゃなく本心から言ってくれてるのが分かって安心できる。
「そう? ならよかった!」
このあとは、この町にきてはじめての外出。
エギルは、この前はちょっと感じがよくなかったけど、虫の居どころが悪かっただけで、今日は仲よくなれるかもしれない。
ワクワクがとまらない!
―――――
「……主はいつになったら、我の存在に気づいてくれるのだ。
我は寂しすぎて、暗い人生をやり直して無理めの美少女を攻略する妄想をしながら、なんとか耐えていますぞ……」
最近、地下のおじさんの声が、なんか元気なくなってきた。あの人、修道騎士向いてないんじゃないかと心配になるこの頃。
よし、あとで様子を見に行ってみよう。
☆おじさんの趣味は妄想




