第10話 魔剣たちは聖器庫に眠る ラキの視点
雷霆の魔剣トニトルスは、聖器庫の壁掛け棚にぶら下がったまま激しく嫉妬していた。
『主が楽しそうに食事をされている!
大変喜ばしいと思いつつ、嫉妬に駆られる自分がいる!
我はもう、三百年近くも放置されているというのに……埃まみれで泣き暮らしているというのに、いいご身分ですな、あるじぃぃいい!!
我は嫉妬で……狂い死にしそうですっ!!』
同じく壁に飾られた五本の魔剣と、一本の短剣が不満を漏らす。
『トニトうるっさーい』
『だまれジジイ』
『もう狂っているではないか』
『オレモタベタイニンゲンタクサンタベ……』
『静かにして、誰かくるわ!』
不意に聖器庫の鍵が、ガチャリと解錠された。
いつもは水色の髪の男が、清掃などの管理をしているが、今、トニトルスの前に歩み寄るのは、さくら色の髪の娘だった。
『リュテに嫉妬して、毎日喚いてるの、誰?
我は嫉妬で狂い死にしそうですって、言ってたひと。静かにして欲しいんですけど……』
(そこの雷霆よ。耳がいいのね、樹霊さん。
でもだめ。彼は女性との会話は苦手なの)
壁掛け棚の端っこの短剣がささやく。
否、魔剣は、己が認めた主としか言葉は交わさない。ラキが精神感応で、魔剣たちの感情を勝手に読んでいるのだ。
「教えてくれてありがとう、短剣さん。
雷霆さん、リュテはいま大変なの。騎士試験もあるし、謀反を疑われれば殺されちゃう。
平穏に暮らすのを望んでる子なの。もうリュテを呼ぶのはやめて……」
パン!
ラキが言い終える前に、トニトルスは威嚇の雷撃を弾けさせた。
(我はもう十分に待った。邪魔立てするなら女といえど焼き殺す!)
「……そう。じゃ、お願いするのはやめるね。
穏便に済ませたかったけど……」
ラキの足元、床の敷石の隙間から、木の根が飛び出した。
いや。それは一瞬で急成長して血管のように壁を這い上り、壁掛け棚をみるみる覆っていく。
雷霆がどれほど威嚇しようが、木の根がアースの役目を果たし、電流が地中へと流れ、吸収されていく。
「命令よ、しばらく静かにしてなさい。リュテ本人があなたを求めるまで、彼を平穏に過ごさせて」
(やめろ、小娘っ!!)
木の根と蔦が、雷霆をぎりぎりと締め上げる。
「ついでにここの床下、すごく深く掘ったの。それ以上うるさくしたら、地中深く埋めて二度と出られないようにする。返事は?」
(くそ、小娘、覚えておくがいい! 我は!)
「へ・ん・じ・は?」
(……はいっ)
「いい子ね」
ラキは外見は愛らしいが、院長ギルフェレスの娘だ。
父の思考を読み取りながら育った、必要ならば手段は選ばない効率主義者だった。
(可愛い桜の樹霊さん。あなたは懐かしい香りがするわ。来てくれてありがとう)
「……あなたも樹霊だったのね。騒がせてごめんね。おやすみ、みなさん」
ラキが扉に施錠して遠ざかると、トニトルスは悶絶して悔しがった。
『くそっ、我ともあろう者が、あんな小娘に!
…………いいや悪くない? 悪くないぞ!!
強気な美少女に振り回される我ッ(物理)!!
主が駄目だというなら、あの娘に責任を取ってもらえばいいではないか!! よい!!
……いや、美少女と結婚!? 鬼嫁の尻に敷かれ、掌で転がされる我ぇぇえ(物理)!!』
『だまれジジイ』
『やはり狂っているな』
『節操なしね。静かにしなさいよ。
あんたと生き埋めなんてごめんだわ!』
『トニトもミゼリもうるっさーい』
『タベタイオレモビショウジョタベタイタベタイ』
魔剣たちは、聖器庫で静かに眠っている。
主がここの鍵を開ける、その日まで。
*
『王国建国記』には、こう記されている。
『スミレギス王国はかつて『剣王の国』、『覇王の国』として諸国に恐れられてきた。
建国神話の時代、剣王が敵対する魔族の国を滅ぼし、荒ぶる魔物を九本の剣に封印したのがこの地と言われている。(中略)
騎士修道院の聖器庫に封印されているのが、その護国九剣と呼ばれる戴冠宝器である。
なぜ王家の秘宝が、騎士修道院に保管されてきたか。
九本の魔剣はそれぞれ意思を持っており、大変気難しく、主と認めた者以外に決して触らせない。
彼らが王を選ばぬ限り、ここを動かないからである』
☆ようやく明かされた魔剣たちの存在。
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