第11話 はじめての外出 エギルと一緒
夕食の買い出し担当は、だいたいエギルだ。
食事の準備や後片付けはラキの仕事だけど、買い出しは量が多くて重いから、修道騎士たちの交代制。
でも、修道騎士は討伐要請でしょっちゅう出かけるし、エギルは鍛冶だからずっと工房で仕事の自由度も高い。
必然的に彼が買い出しを代わることが多くなるんだって。
ぼくはエギルの仕事が終わるまで、玄関で待っている。
……修道院の外に出るのは、闘技場以外では五年ぶりになる。
今まで、ずっとひとりだった。
だれかと外出なんか初めてだ!
ウキウキしながらいくらでも待つよ!
王子時代は町中を歩いたことなんかないから、とっても楽しみだ!
エギルが工房から戻ってきた!
ぼくは挨拶しようとしたんだけど。
「必要以外は話しかけんなよ」
……ウキウキ気分が一瞬で粉砕された。
だけど全然気にしない!!
「エギル! あれなに!?」
院の庭には、人より大きな赤い花が咲いてた。
牙を剥きながら唇みたいな花弁をハグハグさせてる。
魔物じゃん!?
漆黒の大きな幽霊犬たちが、ヨダレを垂らしてこっちに駆け寄ってくる!
赤い花が触手みたいなツルを伸ばしてきた!
斬りかかったら剣が折れた!
グリムに秒で捕まる。
頭から丸かじりされた!
「むぐぅ!」
頭が全然抜けない!
出かける前なのにもう、ヨダレでベトベト。
泣きたい。
いや、ちょっと泣いた。
エギルが駆け寄って引き抜いてくれた。
「チッ、必要なときは呼べつってんの!
こんなフカフカの花で折れるなんて、何でできた剣だ。ラキのパンの方が固いんじゃ……」
苛立ちを隠さずに、エギルが折れたぼくの剣を拾う。
「……おまえ、おれの剣折ったな。なにを何体斬ったの?」
うわ、このひと、修道院のすべての武器を打つ鍛冶屋さんだった。怒られる!
「鋼鎧蛇六匹。すごく固くて。
急所もわかりにくくて何回も斬ったんだ。ごめんなさい鍛冶屋さん、あとで直してくれる?」
エギルは初めて、こちらを向いてくれた。
肌も髪もほとんど白いくらい。
海みたいな濃い青い目が綺麗なひとだ。
「怒ってねえよ、感心したの。おれの剣は鋼鎧蛇くらいじゃ折れない。毎日、相当鍛練してるな。
影で努力するやつは嫌いじゃないよ。 おれはエギル、おまえの名前は?」
「リュテだよ。よろしくね、エギル」
エギルが握手の手を伸ばしてくれる。
ぼくを大人として扱ってくれてる。
黒犬のヨダレでベトベトになった虚無感を、忘れるくらい嬉しかった。
だって、ちょっと苦手だった人がぼくを受け入れてくれただけでなく、人知れず積み上げてきた努力に気づいて認めてくれたんだもの。
――――――
町中を通り、市場に肉と香辛料を買いにいく。
一般の修道院のことは知らない。
でも、うちの騎士修道院では年に数回、肉が解禁される祝日がある。
砂岩の石畳の舗装道路。
左右には同じく砂岩の三階建ての建物が立ち並び、道の両端に簡易な布張りの屋根がついた露天が展開してる。
人がたくさんいる!
なんかよくわからない食べ物の屋台。
野菜や果物。
織物や雑貨などの店が雑多に並んでる。
香辛料の匂いが混ざり合って強烈。
修道士服の灰色を見慣れたぼくには、道行く人たちの色とりどりの装いがとても眩しい。
見るもの全部が楽しくて仕方ない!
「エギルさーん! こっち見てー!」
三階建ての窓から手をふるお姉さんたち。
あっ、エギルがキスを投げた!?
食堂でぼくが見たのと同じ人ですか??
「エギルゥ! 安くするから買ってかない?」
「うん、今日も可愛いね。今はこいつのお守り役だから今度また」
あの下着のお姉さんは何を売るひとだろう?
あんな格好で出てきちゃダメだ。
風邪をひいてしまう!
少し目を離してる間に、小さな女の子がエギルの白い服の裾を握ってる。
「わたち、エギルのおよめたんになりたいの」
「いいよ。あと20年たったらおいで」
なんの約束してんの?
修道士は結婚できないよね!?
とにかく、エギルは女の人にモテモテだ。
そしてすれ違う幼児からお婆さんまで、分け隔てなく片っ端から口説いてる。
きりがなくて進まないよ。
☆エギル編は続く




