第8話 精霊の森
初めてのみんなとの夕食は楽しかった。
……とても、楽しかった。
でも、父上は叔父上に裏切られて死ぬ前、ぼくに『誰も信じるな』と言ったんだ。
その理由は、ぼくも知ってる。
現在の王である叔父は、昔は優しくて誠実な人だった。幼いころ、多忙な父の代わりによく遊んでくれた記憶がある。
でも、いつからか叔父の肩には、得体のしれない不気味な黒い影が張りついたのが見えた。
その頃から、叔父は変わった気がする。
ぼくは母上譲りの精霊眼と精霊耳の持ち主だ。
普通の人が見えないものが見えるし、聞こえないはずの音が聞こえたりする。
あの黒い影が何なのかは、わからない。
でもいま、騎士修道院にはあの影がついてる人はいない。
……先生以外は。
先生の体からは叔父上ほど濃くはないけど、黒い霧のようなのが出てる。
しかも毎日じゃなくて、現れたり消えたり揺らぎがある感じだ。
セイルやオービスたちは、ふつう。
一緒にいると楽しいから、当分つきあってみようと思うんだ。
情報収集の為にも、交流は必要だしね。
…………。
ラキと先生以外と話したの、久しぶりだ!
兄弟みたいって言われた!
興奮して眠れないかもしれない!
―――――
深夜。
修道院の北、精霊の森から悲鳴と泣き声が聞こえてきた。
大昔、精霊の森には樹齢の長い木がたくさんあり、樹霊と呼ばれる樹木の精霊が大勢宿っていた。
美しい樹霊は過去には奴隷として狩られ、または男を惑わす忌まわしい存在として焼き討ちされて迫害の対象になった。
その怨念が瘴気となって森を包み、死んだ樹霊たちは呪いと怨嗟の声をあげながら、今もさまよっている。
昔、母上からそう聞かされたことがある。
(なんて、苦しげな叫びだろう)
聞いているだけで動悸がする。
耳をふさいでも、精霊の声は耳に忍び入ってくるみたいだ。
樹霊は本体の木から出る魔力や根を介して、記憶や感情の同期をする性質がある。
ぼくやラキにも樹霊の血が半分は流れているから、特にこの声がつらいのかもしれない。
「怖くて寝れないから一緒に寝てー!」
ラキが部屋に飛び込んできた。
ラキのお母さんも確か母上と同じ森出身だ。
だからラキも精霊耳をもっていて、呪いが強まる月のない夜は怖がってこの部屋にくる。
ラキの精霊耳はとても能力が高い。
強い感情や思考まで聞こえてしまうから、あの声は死ぬほどつらいんだそうだ。
ぼくだって感じてる。
悲鳴が胸に痛い。
どうか、彼女たちの魂が救われますように。
もう同じ苦しみを誰も味わいませんように。
ぼくとラキは向かい合って、耳をふさいだまま眠った。
地下牢でまたおじさんが騒いでたけど、耳を覆って聞かないことにする。
……ごめんね、おじさん。今日は無理。
明日、様子を見に行くよ。
だって、明日はぼくの修道騎士認定試験だ。
合格すれば仮面をつけて外出許可が出る。
家族救出の第一歩。
絶対に、合格してみせる!
☆次回、騎士試験!




