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第65話 ギルフェレスの決断

 


 先生は机の上で手を組んだまま、無言でぼくを見ている。


(どうしよう、ミスリル? 先生、すごく機嫌が悪そう。ぼく、殺されるかも!)


 ぼくが心の中でそう思うと、ミスリルが察して耳打ちしてくれた。


「大丈夫。黄金を持ち出そうと言ったのは私なんですから、リュテは気にせず部屋に戻っていなさい」


「ラキが持っていた『雷霆』。あれは良くできた複製だったな?」


「そっ、そうだろう? さすがだな、ギル。あれだけ精巧に作ったのに、ひと目で見抜くとは。ははっ!」


 エギルは先生の機嫌を取ろうとしたけど、先生はぼくの横にふわふわ浮いているトニトルスとフラミゲールをチラ見して言った。


「増えたな、永らく歴史から姿を消していたはずの魔剣が。

『裂け目』の派手な噴火は王宮からもよく見えた。街では『浄火』の魔剣の主が現れたと大騒ぎだったが、心当たりはあるか、小僧?」


「ひぅっ!」


 喉の奥から、変な音が出ちゃった!

 二人がぼくを庇ってくれようとしたけど、先生は逃がしてくれなさそうだ。


「えっ、ええとっ、トニトルスが狒々の魔物を討伐してくれたんだけど、『火山の玉座』に突っ込んで爆発しちゃって、中からフラミゲールが飛び出してきたっていうか……」


「聖器庫にある魔剣と合わせて、これで『護国九剣《ノヴェムグラディア》』の全てと『聖剣』が、おまえを主と認めたということか」


「……はい。ごめんなさい、先生に迷惑かけちゃった……うん? 聖剣て、なに?」


「『祝福』の聖剣だ。ここを吹き飛ばした日に、おまえが『ベネディクタス』と呼んでいたものだ」


「えっ、でもぼく、ほんとに知らないんだけど?」


 先生は珍しく深い溜め息をついて、ぼくの左耳のピアス――平穏《エウテルペ》を見た。


 平穏は、催眠を司る魔剣だ。

 もしかして、ぼくの記憶がたびたび飛んでしまうのも、この剣のせい……とか?

 ……いや、まさかね?


 ぼくはずっと先生にギャフンと言わせることを目標にしてきたけど、こんなやり方で落ち込ませるつもりじゃなかった。


「ラキはおまえの身代わりになろうとしたようだが、無駄だったな。

 噴火の件も合わせて、王はおまえの生死を改めて確認しに来るはずだ。

 まずは、どこかに身を隠せ。ここにいては危ない。今、すぐにだ」


「……え?」


「そんな、今すぐだなんて。どこに……」


 ミスリルが先生に詰めよった。


「娼館だ。小僧のことは、潜入捜査の時に女だと言ってある。呼び戻すまで息をひそめていろ」


 先生は、そう言って金貨の袋を机の上に置いた。

 

「エギルとミスリル。何のために魔剣を複製していたのかは知らんが、当面は控えろ。いつ役人が踏み込んでくるかわからない、余計な判断材料を与えるな」


「……すみません、院長。黄金を回収してきたのは、私が早計でした」


 ミスリルがベルトに装備していたアイテムボックスを外そうとしたけど、先生が制止した。


「いや、よくやってくれた。裂け目には、噴火の件で役人が調査に向かった頃だろう。放置していたら、いずれは没収されていたはずだ。財産管理はこのまま君に任せよう、ミスリル」


「ですが…………そうですね。院長の立場より、私の方が欺きやすいでしょうから」


 ぼくは、修道院を追い出されてしまった。


 でも、前みたいに悲しい気持ちにはならなかった。


 先生は冷酷なふりをしていても、どこまでも先まで、ぼくのことを考えてくれている。

 それが、よくわかったから。

         

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