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第64話 黄金よりも尊いもの

 


 ぼくたちは三日がかりで黄金を回収した。


 アイテムボックスの容量はひとつにつき修道院の図書館一部屋ぶんくらいかな。それがみっつぶんだから、大変な量だったよ。


「なんか、毎日見てるとありがたみって無くなるもんだな。途中から、ただただ、重くて腰が痛いだけの重労働だったわ」


「だな。なんか、黄金狩り飽きてきた」


 黄金が本物だと知ってあれだけ大喜びしていたセイルは、そう言って腰を反らした。 

 拾っても自分の物にはならないのだと、途中で気づいちゃったのかもしれない。


 オービスも心なしか疲れた顔をしてる。


「ねえエギル、この金でパン何個買える?」

 

 ぼくは、卵くらいの金塊を拾ってエギルに見せた。


「パンで換算するのは難しいな。金貨一枚で5ヶ月ぶんは買えるだろうから、あとは大きさで想像しろよ」


「2年ぶん!? すごいな、金って、高いんだ」


 王子だった頃は、ベッドや調度品の材料くらいにしか、考えてなかったけど。


「あっ、ところでさ。エギルの剣、切れ味抜群だったよ! 切れすぎて、捕獲用の魔法陣の発動前に魔物が死んじゃうかもしれない!」


「ああ……それは修正案件だな。子供の力でも魔物が斬れることを優先して、研ぎすぎたか」


「すごく軽いし柄の握りも良い感じで、最高だよ。良い剣をありがとう!」


「よせよ、照れるだろ」


 カスタマーからの苦情にも関わらず、「斬れすぎ」の言葉にエギルは気を良くしちゃったみたいだ。すごく嬉しそう。


「いいえ、エギルの配慮は当然です。普通の武器として使えなければ、いざというときに身を守れませんから。魔法発動のスピードを上げるよう、改良してみましょう」

 

「うん、ありがとう!」


 トニトルスとフラミゲールが、遥か上空でまたバチバチゴウゴウしてるみたい。声は聞こえないけど、爆発音と雷鳴がうるさい。


「ねえ、ミスリル。これだけ黄金があるなら、娼館のお姉さんたちの借金を全部返しても余るよね? 先生にお願いしたら、少し分けてくれると思う?」


 ぼくは、ラキと離れてからずっと考えてた。


 ラキが後宮に入り、一生出られないかもと聞いた時の絶望。

 ラキはとりあえず無事だったけど、娼館のお姉さんの家族や友達は、今も悲しんでるかもしれないんだ。


「お金で解決できるなら、みんなを自由にしてあげたい」


「……それは、どうでしょうね。院長は、お金にはうるさい人なので」


「そうだよね。ぼくのお金じゃないのに、余計なことを考えちゃいけないよね……」


 でも、ぼくはやっぱり考えてた。


 もし、この金が全部ぼくのだったら、洗礼式で見た下町のぬかるんだ道路や、井戸や下水道を整備するのに。


 この金塊、複製とかできないかな。

 魔剣が複製できるなら、ミスリルの複製機で、黄金も増やせるんじゃ?


「もちろん、できますよ。魔剣と違って元素も単純ですし」

「ほんと!? やったあ!!」

「本当かよ!?」


 セイルも、今度こそ手放しで大喜びだ。


「ただし、大きなお金を動かすと世間の注目や嫉視を嫌でも浴びることになります。もちろん、王にもです。あなたや院長が不利益を被らないよう、よく考えて、院長と相談してからにしましょうか」 

 

「ありがとう、ミスリル!」


 ぼくは嬉しくて、なにに使おうかと思いを巡らせてた。


 あのおばさんからパンをたくさん買うのもいいな。あの洗礼式で会った子達や、先生が経営してる救貧院に差し入れしたり、ミュゼや母上にも食べさせたい。


 先生も喜んでくれるかな?

 利益を数値化して見せろ、って言われたことあるけど、これは、ミスリルの発明でぼくの力じゃないからダメだな。


「リュテは、黄金より尊いものを持っていますからね。院長も、ちゃんとわかっていると思いますよ。口や態度に表さないだけで」


「なんだよ、そんなに良いもん隠してんの? ちょっと見せてみろよ!」

「えっ? なんだろう、特になにも見せられるものないけど。あ、もしかして魔剣のこと?」


『呼びましたか、あるじ!』

『お呼びですか?』


 トニトルスとフラミゲールが、しゅっと飛び出してきた。


「呼んでない、呼んでないよ! 人目につくから降りて来ないで!」


「魔剣たちも、きっとそうなのでしょうね」


「本人は、無自覚みたいだけどな」

「だな」


 ミスリルが笑いながらそう言うと、エギルとオービスも同意していた。


 みんなで笑いあえる長閑な日だった。


 

             *


 たぶん、ラキの件で王の召喚されていただろう先生は、意外にもいつもと変わりない様子で帰ってきた。


 先生は氷河の魔剣の主だから、今まで王の影武者としての政治的な仕事を引き受けていた。


 ラキが叔父上に渡した雷霆ジェネリックは、悪人には触れない仕様だ。


 叔父上は「雷霆の主」を名乗ることができず、季節ごとに行われる魔剣の御披露目の儀式のため、引き続き「氷河の主」であり続けなきゃいけないんだ。


 ラキは、最初からそれを見越していたから、あんな方法で叔父上を怒らせても、先生は無事だと踏んでいたんだろう。

 


 でも、先生を取り巻く状況も先生の機嫌も、もちろん良くはなかった。


 ミスリルが危惧した領地接収は杞憂で終わって良かったけど、別の問題が出てきてしまった。


「で、俺が結界を張り、魔物まで配備して見張らせていた黄金を横領したのはどいつだ?」


 話がうますぎるとは思ってた。

 ぼくは、また先生を怒らせてしまった。


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