第61話 火山の玉座 リュテの視点
魔術チームが、みんなの状態異常を解除した。
「あれ、私、黄金にされたと思ったのに!」
「俺も……!」
「はい、皆さん落ち着いて。さっきのは集団催眠です! 黄金雉の血には魔力があるようです、水魔法と浄化! 残りの黄金雉は7体!
慎重にやれば勝てる! 耐えてくれ、皆!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」」」」」」」
ギョーム隊長の檄で気力を取り戻した騎士たちは、再び統制を取って攻防に徹した。
地面や隊員についた黄金雉の血は浄化され、気絶していた騎士たちは意識を取り戻した。
多少の混乱はあるものの、他に異常はなさそうで良かった。
爆炎と氷槍が、結界内で右往左往する黄金雉を追う。
「よし、1体落とした!」
誰もが空を見上げていた。
誰の目にも勝利は目前に見えていたし、魔法障壁は上空の強度を優先して展開されていた。
そして、防御チームの魔力は、もう残っていなかった。
「きゃあ!!」
闇に紛れた黒い狒々たちが、障壁の手薄なところを狙い、いくつもの岩を投げつけてきたとき、魔法障壁はバリッと音を立てて消えた。
闇のなか、狒々たちが突入してきた。
「剣士、弓隊を守れ! まだ黄金雉がいる、前に出すぎるな!」
狒々の投げた大岩を、剣士たちが斬る。
砕けた岩を避けつつ、みんなが防御態勢をとるなか、反対側から駆け寄った狒々2体が、一瞬で女性騎士2人を連れ去った。
セイルの精霊弓が狒々の脚を射抜き、オービスが別の狒々の首をはねる。
難を逃れたかに見えた女性騎士のひとりを、黄金雉の足が鷲掴みにするのを見て、ぼくは飛び出していた。
双剣を抜き、黄金雉の足を横薙ぎにする。
バターを斬るような手応えのあと、蹴爪の生えた足がふたつ落ちた。
切れ味、鋭すぎてびっくり!?
黄金雉が剣に吸い込まれる瞬間、切り口から垂らした血飛沫が、ぼくの顔にかかる。
エギルが作ってくれた双剣には、ミスリルが捕獲機能をつけてくれている。
効率的に魔剣を作るため。
そして、なるべく殺さず捕らえるためにだ。
剣の性能が良すぎて、捕獲機能が働く前に対象を死なせる可能性があることは、ふたりに報告しておこう。
まだ、改良の余地がある。
……さっきの血が少し目に入った!
催眠は影響ないけど、視界が悪い。
対応が遅れ、別の黄金雉が飛来して爪を伸ばすのを、ぼくは躱し切れなかった!
『あるじぃぃいい!!』
ドン!
パァン!!
ドドォォォオオン!!
先生が張った結界が壊れた!
トニトルスの雷撃は、一閃で黄金雉を焼きつくす。
精霊弓の矢よりも早く飛んで、狒々たちを斬り払っていく!
ひときわ体格の大きな狒々が裂け目に飛び込んで逃げるのを、トニトルスが追う!
「えっ!? 雷の……魔剣!?」
「なにあれ、つっよ!」
「俺たちがあんなに手こずったのを、一瞬で」
「あれって、まさか!?」
「「「「「「「「「「「「「「「「雷霆!?」」」」」」」」」」」」」」」」
「えっ、雷霆の主がここにいるってこと!?」
「それ、この前見た! ラキさん!」
「でも、ラキさんは王宮で……」
「え、どういうこと!?」
騎士団の皆さんがザワザワしだした!
まずい!! 助けてくれたのはありがたいけど、これはまずいよ!
雷霆の伝説は有名すぎる! せっかくラキが囮になってくれたのに、台無しだ!!
トニトルスが裂け目に飛び込んだ!
裂け目のなか、火砕丘の上に狒々がいた。
『火山の玉座』と呼ばれる噴火口にマグマが冷え固まり、蓋になってるところだ。
トニトルスが狒々を狙って突っ込む!
張り切りすぎたのか、『玉座』が粉々に!
「やった、のか!?」
「えっ、やったの!?」
ギョーム隊長はじめ、みんなが裂け目に駆け寄ろうとした。
ドドォオン!!
でも、爆音と衝撃が凄まじかった。
みんなが耳を塞いで座り込んだ。
「うわっ!?」
「きゃあ!!」
「なんだ、この揺れ!?」
「地震か!?」
「うそ、あれ!?」
「みんな、逃げて――!!」
裂け目から、真っ赤な火柱が上がった!!
噴火したんだ!!
トニトルスが蓋を壊したから!!
「障壁を張りつつ退避!!」
ドカーン!!
『うぉおお!?』
溶岩と一緒になにかが飛び出して、トニトルスを撥ね飛ばし、こっちに飛来した!
灼熱の溶岩の中から飛び出してきたのは、優美な細身の長剣だった。
『我は浄火、真の名はフラミゲール!
主にお仕えしたく参上つかまつった!』
なんか増えた……。
やってくれたな、トニトルスっ――!?
…………
……
*
聖騎士団の特別討伐隊の皆は、疲労困憊ながら、なんとか全員が逃げおおせた。
セイルとオービスが助けたお姉さんふたりも、無事だ。
裂け目から離れた崖の上。
全員が、呆然と噴き出す溶岩の赤い柱を眺めていた。
「……ねえ、べべちゃん。『建国記』って知ってるかな?」
ギョーム隊長が細い目を精一杯見開いて、ぼくを正面から凝視する。
「ふぁっ!? えっ、さあ……??」
「『真の王が現れて浄火の剣が主を決めた時、『火山の玉座』から火柱が立つ』という伝説があるんだ。それが、この火山遺跡で……」
「へ、へぇえ?」
『主、聞こえていますか! 我の名はフラミゲール! どうか我の名を呼び、お手に取って下さい!』
『貴様、急に出てきて図々しいぞ!? 愛剣の我でさえ握られたのは、まだ二度なのだぞ!?』
『ふ。それは、愛剣とは言わないのでは?
こう言ってはなんだが、貴殿は武骨にして粗暴。主の華奢なお手には、我のような優美な剣がふさわしい』
『ぐんぬぅう!!』
必死に誤魔化そうとするぼくの目の前に、トニトルスとフラミゲールが、ふわふわと浮いている。
なんかバチバチ、ゴウゴウしてきた。
「その剣、どう見ても『雷霆』と『浄火』の言い伝えどおりだけど、君は一体、何者なわけ?」
考えろ!
なにか誤魔化す方法を!
「ぼ、いや、べべちゃんは……」
「君は?」
ぼくは覚悟を決めて、トニトルスとフラミゲールを掴んだ。
「魔剣工房の営業さんです!
これは、良くできた複製魔剣で、この遺跡のロケーションを最大限に利用した売り込み戦略の一環でして! うふふ!
聖騎士団で、大量注文してくれると嬉しいな!」
なにを言ってるんだ、ぼくは――!!
騎士団の皆さんは、当然納得していない。
むしろ、ぼくが剣を握った瞬間に、驚愕と納得の表情を見せた。
まずい! 墓穴だった!
「ほほう、実に興味深い! じゃあその複製、ちょっと貸して……」
「駄目です! 死ぬ気ですか!?」
「商品なんでしょ?」
「と、盗難防止機能ですよ! 契約が済んでないから駄目です!」
謎の機能が足されてしまった!
ジェネリックに搭載可能かミスリルに聞いてみよう!
「ふぅん? ま、そういうことにしておきましょうか」
ふう、なんとかやり過ごしたぞ。
でも、ギョーム隊長は静かに寄ってきて、誰にも聞こえないように耳打ちしたんだ。
「ところでリュテくん、グラミス……いや、今はミスリルだったかな。彼は元気ですか?」
「うん、元気だよ!」
ぼくは、ミスリルの本名を知ってる人がいたのが嬉しくて、元気に答えてしまった。
セイルは噴き出すのを必死でこらえ、オービスは切ない表情で顔を覆った!
あっ、これ引っかけだ!
本名バレしちゃった!!
どうしよう!
心理戦には気をつけろって、訓練で散々言われてたのに!
また先生に首を絞められちゃう!!
☆トニトルスの相棒、フラミゲールがついに復活。
リュテを王位につけたがる数々の伝承から、彼は逃げ切れるのか?
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