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第60話 裂け目での死闘 ギョーム視点 



『裂け目』から無数に溢れ出す黄金雉。

 

 前衛の攻撃も補助チームもよくやっているが、黄金雉は次々に湧きだし、落としても落としても際限がない。


「地下迷宮のできた場所が最悪だったな。よりによって、『裂け目』に開口するとは……!」


 前衛をまとめるシードルが愚痴を漏らす。


 この裂け目はただの噴火口ではなく、マグマに何らかの要因で強い魔力が溶け込んでいる。早急に対処しなければ大規模災害発生の危険がある。


 ――論文でそう警告した学者が、過去、魔術学院にいた。名前はグラミスなんとか。

 現王の簒奪により前王派として処断されかけたのを、団長が引き取り騎士修道院に入れたはずだ。


「団長の見立ては正しかったな。いち早く結界を張っていたのは、備えがあったからか。……読み違えたかな」


 ギョームは上司の目利きを褒めつつ、爆炎を空に放つ。羽を焼かれた雉たちが火の玉のように降り注ぐ。


 王の召喚で隊を離れた際の団長指示は、「演習の一環として全軍で対処せよ」であった。


 だが、日頃から小心で嫉妬深い王が団長の動向を監視しているのを知る副団長メルヴィルとギョームは、全軍での移動が団長への攻撃材料となることを恐れ、討伐に最低限の人員を派遣することにしたのだ。


 この地の強い魔力を吸収して地下迷宮が生まれ、討伐難易度の高い魔物を量産しているなら、今回の討伐は根本的な解決にはならない。


 初期消火に、失敗したかもしれない。


 討伐が増殖に追いつかなければ、いずれは結界が破られ、近隣の村に被害が出る。

 それこそ、王の聖騎士団への口撃の絶好の機会となるだろう。

 なんとしても、それは避けなくてはならない。


 一定時間内に討伐が完了しなければ、結界の外に控えた伝令が応援要請を出す。


 それまでは、部隊を守らなくては。


 順調に討伐は進んでいるはずだ。

 だが、1時間近くは撃墜しているはずの黄金雉が一向に減らない。


 どのチームも疲弊してきているが、多人数の回復を担う補助、高出力の魔力維持で障壁を作っていた防御チームが限界を迎えようとしている。


 日の落ちた藍色の空に花火のように打ち上がる、氷槍と無数の爆炎。それに照らされて煌めく不吉な黄金の翼と肢体。


 疲労で風刃の角度がずれたか。


 黄金雉の1体が血の糸を引きながら墜落した。

 前衛の2列の中程に。


「きゃぁぁあ!!」

「うわあっ!!」


 黄金雉が衝突した隊員らは、即座に黄金の像と化した。

 その血に触れた者、時間差で舞い落ちた羽に触れた者も同様にだ。


 攻防一体の円陣は崩れ、混沌の一瞬を見逃さずに黄金雉が急襲する。


 飛来のたび、誰かを鷲掴みにして飛び去る。


 触れた瞬間に金化するため、無抵抗で持ち去られる。


「ダメだ! 連れていかないでくれ!」

「いやぁ!」

「嘘でしょ、こんな!」


 パニックに陥り黄金化した同僚に触れた者たちも、次々と黄金へ変化する。


「障壁を! 陣を立て直せ! 黄金には決して触れるな!」


 ギョームの声で我に返り、再び円陣が機能しだしたが、この一瞬の隙で隊員は半数近くに減ってしまっていた。


        

             *



 セイルとオービスは、前衛で精霊弓を打ち続けていた。


 見学を言い渡されて円陣の中心部にいたリュテは、この機に乗じて2人のそばにつく。

 自身も精霊弓で応戦しながら、誰とはなしに聞く。


「ねえ、ぼくの目には、黄金雉はさっきから上空にいて、降りてこないように見えるんだけど。どう思う?」


「あ!? いまちょっと忙しいんだよ、赤《べべ》ちゃんにかまってる暇は……えっ!?」


「まさか、催眠か幻術の類いか?」


 セイルとオービスが、攻撃の手を止めずに反応する。


「うん。黄金雉はさっきの爆炎で上に逃げた。でも、隊員たちは的はずれな方向に攻撃しだしたから、変だなと思って。あと、群れというなら、崖の上に黒い魔物も結構いるけど」


『催眠よ。黄金雉の血や羽が辺りに飛び散ってたせいね。崖の上のは狒々。おこぼれを狙って来たのかしら』


 平穏《エウテルペ》がリュテの耳元で囁いた。



「待って、今の本当ですか? なぜ見える?

 君は精霊眼の持ち主かなにか?」


 ギョームが駆け寄り、リュテの横につく。


「えっ、はい。あと、気絶した隊員が放置なのがずっと気になってて……。狒々の群れは、おこぼれが目当てみたい」


「べべちゃん。確認だが、君には隊員たちの黄金化が見えておらず、さっきのパニックで気絶しただけに見える――と?

 状況説明してくれ、君には黄金の石や何かは見えてないのか?

 黄金雉の残数、狒々の数は?」


「隊員13は気絶。黄金雉は残り7、狒々は22!」


 リュテは隊員の息を確認して答え、ギョームはリュテの言葉をヒントに、作戦を即座に立て直す。


「残り7体!? あんなにいたのに!?   

 いや、なるほど。理屈はわからんけど、人間の黄金化と連れ去りは催眠……。納得した。

 狒々単体はそれほど強い魔物じゃないが、我々が疲れて自滅するのを待ってる、と。

 聞いたね、魔術チーム! とりあえず状態異常解除《ディスペル》! 勝ち筋が見えてきたよ!」



             *



 結界外の上空。


 トニトルスは、うずうずしていた。


 魔力の結界の中、たくさんの黄金雉が飛び回り、人間たちは的はずれな攻撃を繰り返している。


『なんと無様な戦いか! あの大将め、目が細すぎて戦況が見えておらぬのか!? 

 ……ここで我が格好よく突入すれば、主は褒めて下さるだろうか。いや、なぜ姿を見せたと、また半泣きになって怒られるやも。

 主! 早く我を呼んでくだされ!』

☆次回、雷霆トニトルス出撃か!?

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