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第59話 黄金雉(アウレウス)



 フレーベル大峡谷は、草木のない黄土色の崖が無数に林立する荒野だ。


 この崖は地下を流れるマグマが地殻の断層を押し上げて作った隆起で、当然、付近には火山がある。


 火山といっても一般的な高山じゃなくて、大地の裂け目からマグマが噴出する『裂け目噴火』の跡地なんだ。


 巨大な裂け目の奥底に、マグマが冷え固まった小ぶりな火砕丘が残る、神話時代の遺跡。


 聖騎士団の軍事演習場から、この火山遺跡を挟んだ更に西の平原までは、都市ひとつぶんの大きさがある。


 魔物の出没が僻地でよかった。


 ぼくは、オービスとセイルに促され、聖騎士団の精鋭30人からなる特別編成部隊の一行に加えてもらっていた。


「うん、いいよ。従騎士《スクワイア》試験の合格者だし、団長が直々に育てた秘蔵っ子なら、問題ないでしょ!」 


 隊長は、20代半ばくらいの黒髪の青年。

 ギョームさんていう、目がすごく細くて調子の良さそうな人だ。

 

 女装したぼくと先生のやり取りが、誤解されて広まったみたいで、他の隊員は腫れ物扱いで遠巻きにしてるけど、あっさり許可してくれた。


「その髪色、ラキさんの親戚か何かなん?」


「秘密です。この子にちょっかい出したら、痛い目に遭いますよ、ギョームさん」


「えー? でも、綺麗な年頃のお姉さんがいないか、オービス君も気になるでしょ?」


「えっ?」


 めんどくさそうな人だ。

 オービスが割って入ってくれて助かった。

 


 移動は、騎馬だ。


 戦時の移動は人数的に転移陣は使えないから、軍人は日頃から徒歩か騎馬で移動するのが普通だ。


 当然、訓練で習ったからぼくも乗れる。


「その火山遺跡に、魔物が出るの?」


 セイルに話を振ったら、さっき泣いてるところを見られたのが恥ずかしいみたいで、さっと目をそらされた。


「うん。この裂け目に最近、地下迷宮《ダンジョン》が出来て、中から溢れ出してきたのが『黄金雉《アウレウス》』の群れだった。

 院長がすぐに結界を張って押し込めたんだが、数が多い上に、奴ら、即死効果持ってるんだ」


「即死というか、触れたもの全てが金になるから、危なくて近づけない、というのが正確なとこだな」


「だいたい即死で合ってるじゃん。ていうかさ、あの魔剣つけてきてるけど、本当に大丈夫なのか?」

 

 振り返ったセイルの目線の先、ぼくの後方の上空には、ゴマ粒ほどの大きさの飛行物体が見える。


 トニトルスが言いつけを守り、かなりの距離を保って尾行してきているんだ。


「うん。反省してるみたいだし、今回だけは信じてみようと思うよ」


 ラキが騎士団の面前で『雷霆の主』を演じてくれた以上、ここに本物が存在するのはまずい。


 それに、ぼくは先生とのやり取りで必要以上に目立ってしまった。この先は空気のように静かにやり過ごしたい。


「ところで、アウレウスってどんなの?」


「そこからか……。若い女の顔に竜の体、雉の翼を生やした魔物だ。全身金ピカで、金をエサにして人を食う」

 

 ぼくが聞くと、セイルが教えてくれた。

 物語に出てくる、ハーピーやセイレーンみたいな魔物だな。


 それに、ラキが言ってた通り、物欲につけこむやりくちが、『災禍の黄金』によく似てる。


 そうこうしてるうちに、火山遺跡の結界入り口に到着した。

 

 立ち並ぶ崖や岩の合間で、眩しいくらいに光ってるものがある。金貨や黄金の砂礫が積み上がっているんだ。


 欲に目がくらんだ、冒険者たちの骨も。


 ぼくは、すごく気になってしまった。

 

「ねえ、セイル。なんで、わざわざ黄金にするんだろう。食べるとき固くなると思わない?

 いや、食べれるのかな。金って味するの?」


「あー? ……そういや、そうだな?」


「馬鹿なこと言ってないで、準備しろ。解錠するぞ!」



 隊長が、物理キーで解錠魔法陣を展開した。


 結界が振動し、異常を察した黄金雉の群れが飛来する。結界に閉じ込められて血に飢えた、美しい魔物たちが。

 


「弓部隊前へ!」


 黄金雉は討伐レベルAの魔物。


 普通は単体で縄張りを持ち、待ち伏せ型の罠で人を食べるとオービスが言った。 


 それが目の前に、200体前後。


 隊長の指示で円陣が出来、二列配置の精霊弓隊が一斉掃射。前列が魔力切れする前に、後列が出て交代する。


 考えなしに突っ込んできた先陣が、矢に拘束されて落ちた。精霊弓には、捕縛効果があるんだ。


 弓部隊の奥には遠隔攻撃担当の魔術師が控え、火球や氷槍で、宙にとどまった群れを狙撃していく。


 そして、中心部には、魔力回復と障壁を担う後衛たち。


 すごい……。


 ぼくは、団体戦を見るのは初めてだ。

 迫力が、演習の比じゃないな。

 隊員が、当然のように有機的に攻撃する様を、ぼくは口を開けて見ていた。


 たぶん、10分も掛からなかったんじゃないかな。


「これで終わり? 思ったより呆気ない……」


 ギョーム隊長が言い終わる前に、眼前が暗くなった。


「嘘だろ!?」

「何体いるんだよ!?」


 隊員たちが小さな悲鳴をあげた。


『地獄の入り口』と呼ばれる裂け目。

 地下迷宮の開口部からは、別の黄金雉の大群が蚊柱のように飛び出してきたんだ。


 

☆黄金雉編、中編へ続く!

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