第58話 ラキの夢
ラキの騒動から数日後。
夢を見た。
ぼくは、ラキを探して走ってる。
修道院の回廊を。
誰もいなくなったキッチンを。
一緒にハーブを摘んだ薬草園を。
城壁に吊るされたのは、麦わらの人形だった。
けど、ラキを処刑へと駆り立てた叔父上の憎悪は間違いなく本物だ。
なぜ、あんなことをしたの?
王に歯向かえば、謀反の罪で裁かれる。
ラキの父親の先生だって危なくなるのに。
なぜ、戻って来ないの?
本当は聞くまでもなくわかってる。
ぼくを守るためだ。
ぼくが魔剣を作って無謀なことを考えたから。
ぼくが雷霆の複製を売っていれば、いつか捕まって吊るされたのは、ぼくだっただろう。
ラキがいない。
どこにもいない。
あの無邪気な笑顔を見て、安心したいのに。
……違った。
あれは計算づくの表情だったんだ。
幼い言動と無邪気さで人を魅了し、懐に入り込む。先生が教えた諜報技術。
それでも、もう、いいんだ。
いくらでも騙されてあげるから、帰ってきて。
すごく会いたいんだ。
ぼくが落胆して自室に戻ると、金色に黒い斑のある豹の獣人がぼくのベッドに腰かけていた。
いや、違う。
豹人の姿の奥に、ラキが透けて見えるんだ。ぼくは精霊眼の持ち主だから。
ラキは頭の上の豹耳をピクピク動かして、ぼくの顔を覗き込んだ。
「……モフモフになっちゃったのに、私がちゃんとわかるんだね」
「うん。どんな姿になってもきっとわかるよ。
ラキは心が読めるから、ぼくが嘘を言ってないってわかるでしょ?」
ラキは泣いたあとみたいに瞼を腫らしていた。いつもより遠慮がちに抱きついてきた。
「……ラキ、今までどこに隠れてたの? みんな心配してるよ。早く帰ってきて」
「私が戻ったら、みんなに迷惑がかかる。
それに、まだ王宮でやることもあるし」
「まだ、何かする気なの?」
「王さまのそばに行けたら、家族のために暗殺しようかとも思ったけど、王女さまのこととか、リュテの言葉を色々考えちゃって。もしかしたら治療できるかも、って迷ったの。
煽りすぎて怒らせて、結局刺されちゃった。
王さまの症状はリュテが思うより、酷かったよ。私の真似しちゃダメだからね?」
「……会いに行くよ。どこにいるか教えて」
「来られたら困るから、教えない」
ラキはしばらく尻尾をパタパタさせていたけど、ベッドから立ち上がり、ぼくの部屋を出て行った。
来られたら、困るところにいるんだね。
変身の魔法を使えて、藁人形で広範囲に催眠を掛けられる存在と一緒に。
…………
……
*
ラキと夢で話した。
無事で元気らしいし、平穏やミュゼと一緒なら、いいか……。
*
ぼくとオービス、セイルは演習場で野営し、朝を迎えていた。
「まさか、ラキさんが『雷霆』の主だったとはな」
「……城壁に吊るされたって噂、本当なの?」
そこかしこから、ヒソヒソと噂話が聞こえる。確かめようにも、先生はここにいない。
あのただでさえ厳格な先生の私事の真相を聞き出せる人など、副団長以外にはいなかっただろうけど。
先生はラキの騒動のあと、王宮に召喚されたきりで、演習の指揮は現在、メルヴィル副団長が執っている。
副団長も憔悴していた。人が良さそうな顔つきだし、先生と同世代くらいで、ラキは娘のように可愛がってたと聞いたから、他人事ではないのかもしれない。
ぼくたちは騒動のすぐあとに、ラキのことらしき噂を聞いて城壁へ向かってしまった。
結果的に大岩に挟まったトニトルスを丸二日放置してしまったんだ。
人目が少ない夜明け前、オービスに頼んで、トニトルスの大岩を割ってもらったのが、さっきのことだ。
もちろん、いまぼくがいるのは、人目を避けた崖の影だけど、解放された魔剣が朝からうるさい。
『主! 必ず助けて下さると、我は信じておりましたっ! この上は、どこまでもお供する所存ですっ!!』
トニトルスはちょっと涙声になってる。
信じてたと言いつつ、ぼくが戻らないかもと不安だったのかもしれない。
「あまり興奮しないで。雷パチパチさせるのもダメだからね!」
『御意っ!』
「いま、トニトルスの姿を見られるのは、まずいんだ。当分は離れたところにいてくれる?」
『……もう、我を捨てませぬか?』
「えっ、……うん。みんなに迷惑かけないと、約束できるならね」
『……わかり申した。あの美少女を思うと腸が煮えくり返るような心地がしますが……はっ、これが恋というものでしょうか!?』
「えっ!? うん、そうかも? ラキのことは、ぼくも、まだよくわからないや」
「いま、ラキって言ったか!?」
ラキの名前を聞いたセイルが顔を上げる。
*
早朝は秋の気配がしていて、少し肌寒い。
ぼくは、昨夜見た夢をセイルとオービスに話した。
「じゃあ、ラキは無事なんだな!? 本当だな!?」
セイルが、ぼくに掴みかかって確認する。
「うん。居場所は、教えてくれなかったけど」
「そっか。……なら、よかった!!」
彼の蜂蜜色の目が、安堵で潤んでる。
「なら、ようやく安心して黄金雉討伐に戻れるな」
オービスもため息をつく。
「黄金雉?」
「ああ。この先の遺跡で大発生してるんだ。
布陣の連携とかは済んだし、俺とセイルは討伐部隊に配属された。おまえひとりで帰らせるの不安だし、一緒に討伐行ってみるか?」
☆アウレウス討伐編、開幕!




