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第53話 聖騎士団合同軍事演習

 


 うん。


 ラキが一緒に行く時点でわかってたよ。

 こうなることは。


 ぼくはミスリルの魔法で髪を伸ばされ、ラキとお揃いのピンク色に変えられた。


 さらに今回は、ラキが楽しそうに化粧をしてくれる。


 ぼくは、小柄で童顔だ。少しでも大人っぽくして、不信感を減らすのが目的なのだそうだ。


 後宮のこととか、本当は凄腕の騎士なのにずっと隠してたらしいこととか聞きたい。


 でも、接触感応《ワイドウェブ》で心を読めるラキが答えないんだから、きっと、今は話したくないことなんだ。


 ずっと、こうやってぼくの心を読みながら、演技でぼくにつきあってくれてたのかな。

 

 ぼくは、ラキが大好きだけど、ラキは違ったのかもしれない。


 出発前だっていうのに、なんだか心が重い。


「リュテは肌が白いから、ふんわりピーチメイクがぴったり。見て、完璧じゃない!?」


「可愛いですよ、リュテ。どこに出しても恥ずかしくない美少女です!」


 ミスリルとラキが盛り上がる横で、エギルはまた、人を信じない捨て犬の目つきになってる。

 

「問題そこじゃないからな? えげつない食い意地だけは、隠しようがないから。そこだけは気をつけろよラキ!」


「まかせて!」


 黒の騎士服にピンク髪のポニテ。 

 女装がぼくのお忍びスタイルになりつつある……。


「女装なんかしなくても、認識阻害の仮面でよくない?」


「道中、何があるかもわかりませんし、もし仮面が外れた時のために備えておくんです。多少、不審な点があっても、大多数の人は可愛い女の子には甘くなりますからね」


「そういうもの?」

「男はそういう生き物だな」


「あっ、大事なものを忘れていました。これを持っていきなさい」


「なに?」


「完成した雷霆ジェネリック、とりあえず20本渡しておきます。使い方はあなたに任せますので」


「ありがとう、ミスリル!」

 

 ミスリルに渡されたアイテムボックスをベルトに装着しようとしたら、


「私が預かるわ。もしスリにでも盗られたら、大変なことになっちゃうもの」


と、ラキに奪われてしまった。


「それもそうですね」

「ありうるな」

  

 ミスリルもエギルも即座に納得した。



「リュテは、これを持っていけ」


 エギルがリュックを放って寄越す。

 中には、道中のお小遣いらしき硬貨の袋と、パンが入っていた。


「わあ、いいの!? ありがとう、エギル!」


 

 初めての遠出!

 初めての旅行!

 

 ぼくは、任務よりもラキと二人で出歩けることが嬉しかった。


       

             *



 

 フレーベル大峡谷。


 騎士修道院から本来なら馬で二日の距離にあり、切り立つ崖が無数に並ぶ荒野。 


 毎年ここでは各地の聖騎士が集結する聖騎士団軍事演習が、積み上げで行われていた。

 

 軍事演習は有事を想定した総合的な実戦形式の訓練や、装備の運用評価だ。


 地形を利用した陣形訓練、部隊ごとの連携、斥候や伝令などの指揮系統、特殊部隊の機動性、緊急時の共有事項などの確認をするらしい。 


 聖騎士団の総数は、現在2803名。

 

 もちろん、騎士修道院のみんなも交代で参加してる。


 現在参加してるのは、セイルとオービス。

 そして聖騎士団の団長である院長、ラキのお父さんのギルフェレス先生だ。



 旅程は簡単だった。


 フレーベルの教会まで転移陣で移動して、時間を大幅に短縮した。


 そこから演習に使われる軍事的立ち入り禁止区域までは、徒歩で1時間弱。


 街道から森を抜けると、目の前が開けてきた。


 軍事施設だから長大な柵があって、大規模な結界が張られていたけど、ラキはここのゲートの物理キーも持っていたので、難なく入ることができた。



 見渡す限りの黄土色の土と崖。

 岩肌が剥き出しで草木も生えていない、大きなテーブルマウンテンが無数に並んでいる。


 至るところで歓声やかけ声が聞こえる。

  

 演習する部隊から少し離れた大きな崖の陰から、ぼくとラキは演習を見学することにした。

 

 ふたつの崖の間に待機した小隊へ、別の部隊ふたつが前後からなだれ込んで挟撃する様子が見える。


 やや離れた小高い崖から指揮杖をふるう先生の姿も。

 


「ねえラキ、ほんとに大丈夫なの?」


 ラキはエギルのくれたリュックからパンをふたつ取り出して、ぼくにひとつ手渡す。


「だいじょぶ、だいじょぶ!

 だって3000人近くの騎士がいるんだし、いくらお父さんが目敏くたって、みんな同じ騎士服着てる上に女装も完璧だよ? 絶対に見つかりっこないから!」


「そうだよね! いくら先生の目つきが悪くて、目が合っただけで人を殺せそうなくらい鋭くても、こんな遠くにいるぼくたちが見えるわけ――――」



 パンに齧りついていたぼくは、ちょっとむせた。


 気のせいかな?

 崖の上で指揮してた先生が、こっち見た?


 

 一瞬ひやりとしたけど。

 気のせいだな。


 だって先生、慌てた様子で崖の後ろに走っていった。


 気を取り直して食事を続けよう。


 ぼくは、緊張で乾いた喉を潤そうと水筒に口をつけた。


「ねえ、ラキ。この後だけど災禍の黄金……」


 そして盛大に吐いた。


 ぼくの仮面についた転移陣から、黒い煙みたいに先生が飛び出してきたんだ!


「ごめんね、リュテ! ちょっとお父さんに怒られてて! すぐに戻るからね!」


 ラキは笑顔で手を振り、どこかに駆け出してしまった。


「えっ、なに!? どういう……!?」


「聞きたいのはこっちだ、小僧」


 後ではめられたと気づいた。


 ラキはこの時、雷霆ジェネリックの入ったアイテムボックスを持ち逃げして、ぼくを時間稼ぎに囮にしたんだ!


☆聖騎士団最強はギルフェレスでなくラキであることを、リュテはまだ知らない。

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