第52話 災禍の黄金
「先生も留守にしてることだし、ぼく、修道院を抜け出して、魔剣の移動販売をしようと思うんだ!」
「ダメに決まってるだろう!」
「ダメに決まってます!」
ぼくの話は、エギルとミスリルに即座に全否定された。
「前に言ったこと、覚えてるか? 世の中には、子供を誘拐して売り飛ばす悪い奴がたくさんいるんだよ。おまえはずっと修道院に幽閉されていて、世間知らずだ。一人旅なんか認められるか!」
「二人とも、ぼくのこと心配してくれるの?」
「当たり前だ。今までおまえの突飛な言動で、どれだけ振り回されたと思ってる。娼館の客を踏み散らかした事件、あれは悪夢だったな」
「院長への『あーん』も衝撃でしたよね」
「弱みにつけこんで剣100本作らせようとした、あの図々しさは商売向きではありそうだけど」
「稼ぎを、パンひとつで根こそぎ奪われる未来が見えますよ」
「ひとり歩きさせるのは、怖すぎる」
「同感ですね」
……心配されるのは大好きだけど、なんかすごく複雑な気分。
「ぷぷっ、主、大人気! 愛されてる証よ!」
耳元で平穏が噴き出す。
エギルは聖騎士団の納品があって忙しそうだし、ミスリルはジェネリックの魔法付与や他の護国魔剣の研究の仕事がある。
「合同軍事演習が終われば、オービスやセイルが帰って来ます。彼らと魔物討伐に行き、帰りに足を伸ばすのはどうです?」
「……先生にバレないかな?」
「今回の演習は2800人規模ですからね。部隊ごとの訓練や装備の運用確認もありますし、当面は戻らないはずですよ」
ぼくとミスリルが話し込んでいると、
「私が一緒に行ってもいいけど?」
と、ラキが加わってきた。
「私、冒険者ギルド直通の招請用転移陣の鍵、お父さんから預かってるし!」
ラキは、にへっと笑った。
その笑顔はいつも通りの甘えん坊の顔だ。
『平穏』が言ったような―――先生のコピーみたいに有能な騎士には見えない。
『主は子供ね。女の子は笑顔で騙すから怖いのよ?』
「…………」
「そうですね。ラキが一緒なら安心です!」
「ああ、じゃあ頼むぞラキ!」
「えっ? ラキとぼくは、ひとつ違いだよ?
そんなに変わんなくない?」
「私の方がひとつ年上ですけど!」
ふたりとも、ぼくのことは大袈裟にダメな子扱いなのに、ラキに対する信頼感は絶大な感じ。複雑。
「では、雷霆ジェネリックの魔法付与を済ませますので、リュテには『災禍の黄金』の件を任せてもいいですか?」
「うん、もちろん!」
ぼくは、剣も魔力付与もできないけど、護国九剣の主にはなれそうだからね!
できることは、やっておかなきゃ。
エギルに鍵をもらって、聖器庫に行くことにした。
もちろん、このとき工房の天井にトニトルスがへばりついて、ぼくをストーキングしてるなんて気づいていなかった。
精神感応で人の心や魔剣の声を聞ける、ラキとミスリルを除いては。
*
『いらっしゃい、主。ぼくは『災禍の黄金』。真名はカラミタスだよ。ぼくを主の剣にしてくれる?』
「うん。カラミタス、ぼくに力を貸して欲しい。君は振るたびに望むだけの黄金を出してくれる剣、だよね?」
『そうだよー? ただし、ぼくの出す黄金には漏れなく呪いがかけられてる。呪いの金貨をばらまいて、敵国やそこの人間を内側からボロボロにするのがぼくの仕事で趣味!』
なんて物騒で迷惑な趣味だ!
これは仲良くなれる気がしない。
「『呪い』がかかってない、普通の金は出せないの?」
『ぼくは呪いの剣だよ? 黄金を奪い合って人が憎み合い、陥れ合い、最後は殺し合う。ぼくはそれを見るのが何よりも好きなんだ。主の頼みでも、言うことは聞けないね』
護国魔剣たちは、どうしてみんなこうも、ぼくの思いどおりにならないんだろう?
『主、元気出して! 私があいつに催眠かけてあげる!』
『平穏』が淡いグリーンの催眠光を放った。
「ねえ、カラミタス。呪いのない金を……」
『いやだね!』
「えっ!?」
『なんで催眠が効かないの!?』
『富の欲望は人の心の動きの中でもっとも強いもののひとつだ。催眠なんか比じゃないくらいに強い魅力が金にはある。……でもね、主』
カラミタスは陶酔するような声で言った。
『条件によっては、主が望むだけの黄金をあげてもいいよ?』
「……条件て、なに?」
『その汚れのない魂! それをくれるなら、一生困らないほどの黄金で、主の人生を満たしてあげる』
「ぼくの魂を買い取るってこと? なんのために、そんなことするの?」
『ぼくは醜いものを散々見飽きてる。だから、より強い刺激が欲しいんだ。主の魂はまだ汚れなくて綺麗だ。
興味あるんだよ。綺麗ごとばかり言ってる主が、どんな風に道を踏み外して汚れていくのかがね。だって、あの人間もそうだったから!』
『悪趣味! 行こう、主。こいつ頭おかしいの』
「う、うん」
『主! ぼくはずっと待ってるよ。いつでもぼくに会いに来てね?』
*
「呪われた金貨か。怖くて試せないな」
エギルが神妙な面持ちで呟く。
「ええ。でも、どんな災いが起こるか興味はありますね」
ミスリルはちょっとウキウキしだした。
研究が乗ってくるとちょっと悪い顔になる。
『カラムで試すのはどう!?』
平穏がまた物騒な提案をする。
「いいですね!」
「いいかもな!」
『いいでしょ!?』
「えっ、ダメだよ! カラムが使った先で、金貨がほかの人に渡ったら、迷惑がかかるよ!」
「どうなるか見たかったのに」
「となると、『災禍の黄金』の複製は難しそうですね……ガッカリです」
……仕事ができて頭が良くても、ちょっとダメな大人たちだ。ぼくがしっかりしなくちゃ。
「そういえば、聖騎士団が演習してるフレーベルの遺跡に、災禍の黄金っぽい魔物が出てるみたい。大量発生してるから演習の一環で討伐するってお父さんに聞いたわ!」
ラキが加わってきた。
「ねえ、リュテ! 魔剣売るついでに、ちょっと見に行かない?」
☆聖騎士団編、スタート!




