第51話 雷霆ジェネリック
工房に行くと、ミスリルとエギルの二人がまた議論を戦わせてた。
「ミスリル、複製機もう直った? なるべく早く、雷霆のジェネリックが欲しいんだ!」
「有りますよ、無事な複製機。ついでに言うと、雷霆さまの魔法出力パターンも計測済みなので、魔剣への転写実験に入っています」
「えっ!?」
「なんだよ、早く言えよ!」
ミスリルの予想外の言葉に、ぼくは一瞬固まり、エギルが憤慨した。えっ、仕事早すぎない?
「私は製品化の際、いつも試作機を3台作ることにしてるんです。研究で使い倒す用、保存して眺める用、非常時の予備として。
残念ながら雷霆さまのあの個性的な人格は、まだ再現できていないんですが……」
「いや、十分すごいぞ!?」
「予備ふたつもあったの!?」
「いいえ、間違えないでください。予備はひとつ。もうひとつは眺める用です! ええ、雷霆さまに見られたら壊されそうなので黙っていました」
ほんとにすごいよ。小さなことに変なこだわりあって、たまにめんどくさいけど。
「やっぱり天才だな、ミスリルは!」
「そうでしょう?」
「あっ! あと、相談なんだけど、ジェネリック魔剣を作るのにお金かかったでしょ。そのことで……」
「俺の剣の材料については、心配いらないぞ。ギルは金に汚いけど、軍備や工房の費用については出し惜しみしないんだ」
「ええ、悪人ですが、そこは偉いと思います。
あとは、『災禍の黄金』の件ですよね。あの剣にも催眠をかけて、複製できるか試してみましょう」
「わぁ、ありがとうエギル、ミスリル!!」
そうだった。ミスリルは精神感応薬を服用してる。言葉にしなくても全部をお見通しで、話が早すぎる。この人は、ほんとに有能だ!!
院長がエギルの仕事については出し惜しみしないっていうのは、意外だったけど。
「ふふ、意外ですよね」
ぼくの心を読み、ミスリルも笑う。
「うん。でもね、ミスリル。ぼくは、トニトルスの人格コピーはいらないと思うんだ。
悪気はなくても、あの威力と暴走癖はみんなを危険にさらしてしまう。ジェネリック魔剣には、意思がないほうがいいと思うんだ」
「俺も同感だな。津波のあとに雷撃が来たときは、やばかったし」
「そうですか。あの奔放な性格は、とても興味深いですが。わかりました、それならば複製はほぼ完成です。性能評価してから量産に移りましょうか」
*
闘技場。
ぼくとミスリル、エギルは、雷霆のジェネリックの威力や使い心地を試すことにした。
闘技場は『創世記の神々が戦うために作った』遺跡だから、壊れても魔法で自動修復されるんだ。
雷霆ジェネリックが本物のトニトルスみたいに暴走して、たとえ施設が大破してもなんとかなる。
「では、ちょっと失礼して私が振ってみます!
夢だったんですよ、護国魔剣、特に雷霆さまの魔力を解明することが―――!!」
ミスリルが興奮して、オタク化してきた。
剣をすらりと抜き、階段状に高くなってる観客席を狙って一閃する!
ドォォオオオン!!
「うわぁぁああ!?」
ぼくは耳をふさぐ。ミスリルが剣を振った先、観客席の3分の1が吹っ飛んだ!
それどころじゃない。
その奥の森の木が爆風で粉々だよ!
「えっ!? すごいよ!? すごいけど!?」
どうしよう。
先生が演習で留守だから助かったけど、森が吹き飛んだのがバレたら、首絞められちゃう。
「俺にも! 俺にも貸して!」
ドォォオオオン!!
「うぉお、すげえ! 英雄王になった気分!」
「威力は本物の雷霆さまには到底及びませんが、まあまあですね! 『本物』を知らない人が見たら、騙されるのではありませんか!?」
「うん! ほんとにありがとう、エギル、ミスリル!」
ぼくは、ミスリルに思わず抱きついてた。
ラキや先生を助けたい。
ぼくが雷霆と出会ったせいで、ほかの冒険者や知らない人を巻き込むのは嫌だと、ずっと思ってた。
ここから先は、叔父上――王さまに喧嘩を仕掛けることになる。
準備ができ次第、1人でここを出ていこう。
ふたりとも、大好きだ。
みんなのことが大好きだから、もう、一緒にいちゃいけないんだ。
「なにを馬鹿なことを考えているんです。
そんなおもしろい計画をしておいて、今さら私を仲間外れにする気ですか? パンを買う小銭もない箱入り育ちのあなたが、どうやって暮らしていくと?」
「いひゃい!!」
ミスリルがぼくのほっぺをつまんで引っ張った。オービスほど馬鹿力じゃないけど、そこそこ痛い!
「王権の象徴、雷霆さまを複製している時点で死罪案件です。エギルも私も、最初からそのつもりでサポートしていますよ?」
この人はいつも冷静で、余計なことは口に出さない。
でも、ぼくのために命をかけてくれる。優しくて温かな人だ。
「えっ、なに? こいつ、またなんか馬鹿やらかそうとしてる?」
「ええ、せっかく完成した雷霆ジェネリックを持ち逃げして、王さまと喧嘩をする気です」
「なるほど。許さん! 俺もまぜろ!」
エギルにもほっぺを引っ張られた!
ほっぺも胸も痛くて、涙が出てきちゃった。
みんなを守るには他に方法はない。
失敗も許されない。
ぼくは、ぼくなりの方法でこの国と、王さまを変えようと思うんだ。
ぼくがそう決意した、その頭上。
妄執ストーカー魔剣、雷霆トニトルスが工房の天井に張りついていることに、この時は、まだ誰も気づいていなかった。
☆トニトルスの闇堕ちが止まらない。




