第50話 ラキの告白
騎士修道院の総会所。
「ただいま!」
「ああ、お疲れ」
「おかえり、二人とも」
ぼくとミスリルが水蛇討伐を済ませて戻ると、セイルとラキが話をしていた。
セイルはラキが大好きだ。
いつも彼女を目で追ってるし、機会があればすかさずそばに駆け寄る。
ぼくは、それを見るたびにもやもやして、なんだか焦るような気持ちになる。
ラキが取られるかもしれない、と、危機感を覚えるんだ。
セイルのことだって、ぼくは大好きだ。
だから、すごく複雑。
「私、たぶん近いうちに後宮に入ると思う」
「「「……えっ!?」」」
ぼくもセイルも、ミスリルも固まった。
セイルのことより格段に複雑で絶望的な話を、ラキが余りにもあっけらかんと話すから。
「えっ、どういうこと!? なんで後宮!? いつから!? もちろん断るよな!?」
「なぜ、いつそんな流れになったんです?」
セイルの動揺ぶりは、かわいそうなほどだ。
ぼくだってそれは同じで、楽しい土産話とかが飛んでいき、頭の中が真っ白になってしまった。
「お父さんが、やらかしたの。王さまのご機嫌損ねちゃったみたい。私も人質になるっぽい。断るって選択肢は、私には無いみたい」
ラキは無理に笑顔を作っていた。
運命を受け入れるしかないと割りきって葛藤する、娼館のお姉さんたちのような表情。
ぼくの大切な人には、絶対にさせたくないと思っていた、あの顔だった。
「やらかすって、なに? あの院長がそんなヘマするはずないだろ。人質を取られてるのに。
…………まさか、雷霆が鳴ったせいか?」
ラキの淡々とした言葉が刺さる。
いつも楽しくて親切なセイルの、困惑と非難を含んだ瞳がぼくに向けられる。
血の気が引くのがわかった。
震えが止まらない。
「……どうして、雷霆が先生のせいになるの?
何も、悪いことなんかしてないのに?」
「お父さん、外向きには氷河さんの主でしょ。王族でもないのに。
もともとそのことで、王さまの不興と不信を買ってるの。本当は他の剣の主であることも隠してるんじゃないかって、責められてたわ」
『私も人質に』。
ラキの言い方からすると、ぼく以外は先生が人質を取られてたことを知ってるんだ。
それはたぶん、ラキのお母さんで――――。
オービスだって以前、娼館で言ってた。
それぞれに事情があっただけで、先生を恨んではいないって。
「今はお父さん、聖騎士団の軍事演習で忙しいからね。王宮に移動するのはそれが終わってからになると思う」
その日の食事は、味がしなかった。
憔悴しきったセイルの、肩を落とした姿が忘れられない。
みんなにとってもラキは可愛い妹だ。
エギルもミスリルも、無言で食事を流し込んでいた。
ぼくはラキが大好きだ。
つらいときには、いつもそばにいてくれた、家族みたいなものだ。
誰より幸せになってほしいと思ってる。
過去はどうあれ、先生にも感謝してる。
厳しくて感情を表に出さない人だけど、言動の端々に優しさを感じてた。
ぼくを厳しく鍛えてくれた、父親のような側面もある。
……ラキの話を聞いた今なら、先生の言動の不可解さも、あの黒い呪毒を飲まされる理由も理解できる。
大事な家族を守るためなら、ぼくだってなんでも差し出す。多分、なんだってしてしまう。
……ぼくの家族がバラバラになった一因は先生にあるから、全部を受け止めることは、もちろんできないけど。
ラキが後宮に連れて行かれたら、ぼくは立場的に、もう二度と会えないだろう。
ぼくのせいでラキや先生の人生を台無しにして、みんなを苦しめている――――。
それがなにより、耐え難かった。
なんでもいい。
ラキを救う方法を考えなくちゃ。
ラキや先生に報いる機会は、今しかないんだから。
『大丈夫よ、主!』
左耳の剣型ピアスから、小さなトンボの羽のついた妖精が出てきて、ぼくの鼻先を撫でた。
『あの子。ラキちゃんは、主が思ってるほどか弱くて可愛いだけの子じゃないの。ちゃんと王さまを暗殺して証拠も残さず、笑顔で帰って来るわよ!』
「……えっ?」
『あの子の中身はギルフェレスさまのコピーみたいなものよ? 聖騎士団随一のやり手なの。
人質になったからと泣きながら従うわけないじゃない!』
エウテルペがうふふと笑った。
ぼくは、まだ状況が整理できずに反芻する。
「えっ!?」
ラキが叔父上を殺……?
騎士団随一の……?
『ラキちゃんは半樹霊よ?
いくら主が可愛いからって、分別のある年頃の女の子が、人前で異性に抱きつくと本気で思ってたならおめでたいわ。
接触感応で、主の心をいつも読んでた。
ミュゼさまの言動を真似て、主の妹ポジションを取りながらね』
「なにそれ、怖い」
ぼくは、慌てて駆け出した。
それが本当なら。
なおさらラキを止めなくちゃならない!
☆リュテとラキをを取り巻く状況は急展開。
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