第48話 ドラゴン討伐(3)
『主は我だけ可愛がればいいのです! 我よりも心を許す者がいるなど許せません!!』
こいつ、おじさん声のくせに全力で可愛がられようとしてくる!!
思い返せば、心当たりがある。
水魔が津波を起こした日も、トニトルスは水浸しになったミスリルやエギルがいるのに、躊躇なく雷撃を浴びせた。
日頃の馬鹿みたいな言動で油断してたけど、あれがトニトルスの本質だとしたら?
オービスが飛んだ!
炎竜の背に飛び乗り、首を断とうと大剣を構えてる。
でも、竜も黙ってない。オービスを振り落とそうと急回転しはじめた!
「ぼくは修道院のみんなを大事な家族だと思ってる。手出しするなら絶交だ。
オービスは助けがなくても竜を倒せるから、おまえもここで待機して、トニトルス」
『我は――』
「主の言うことが聞けないなら捨てるよ?」
ぼくはオービスから目を離さずに告げた。
オービスが態勢を崩しつつ竜の首に大剣を突き立てた。頸髄を断たれたのか竜は動きを止め――落下した!!
地響きと共に砂煙が舞う。
「やったぞ! 聖騎士さまが炎竜を倒した!」
竜が墜落したのを見て、何人かの村民が洞穴の入り口に駆け寄ろうとする。
「待って! まだ3体目がいるかもしれない! 中で待機を……!」
興奮した人たちはラキの制止を振り切り、続々と外に出た。
「うわぁぁああ! 黒竜だ、黒竜が来たぞ!」
黒竜は、炎竜の黒色変異種だ。炎竜より体格がひとまわり大きく――圧倒的に強い!
地上で剣を振るうオービスに向かい、ホバリングしながら長い首や足の鉤爪を繰り出し、炎を吐く。
さっきの炎竜よりも機敏、そして攻撃の多彩さを見る限り知能も高そうだ。
オービスが押されてる。鉤爪を振るいながら、強大な尾を叩きつけてくる!
地面や大岩が広範囲に弾け飛ぶ。
剣では到底防ぎ切れない。
オービスの頬に鋭利な岩の欠片が当たり、血が流れる。
『ふふん……待機で良いのですか?』
「うん、永遠に待機だ!」
ぼくは精霊弓を引きながら飛び出してた。
「べべちゃん! バカ、戻って!!」
角度を変えた矢を2本つがえ、弓を引く。
1本は目を狙い、もう1本は翼を。
躱されても絶え間なく次を引き続ける。
弓は背中に装着したケースに自動で装填される。ミスリルの製作したアイテムボックスだ。
走りながらさっきの炎竜が叩き割って落とした大きな岩の影に滑り込む。
炎から隠れつつ、次々と矢を放つ。
黒竜がこちらを狙えばオービスがその翼を狙って斬りつけ、オービスを狙えばぼくが矢を射る。
「いいぞ、べべ! そのまま隠れてろ!」
オービスが黒い翼を狙って飛んだ瞬間。黒竜が仰向けになり、炎を吐く!!
ぼくは咄嗟に飛び出し、黒竜のこめかみに矢を放つ!
黒竜の首がこちらに向き、炎の奔流がぼくを包むのがスローモーションのように見えた。
ぼくの体は、いつも勝手に動き出してしまう。
考えるより先に。
――これは、死ぬな。
覚悟した。
トニトルスがいつの間にか目の前にいて、剣の中心から紫電の巨大な魔法陣が展開した。
……炎はぼくのすぐ前で魔法陣に弾かれて横に流れていく。
ぼくの左耳――ピアスから蛍色の閃光が拡がった。
黒竜が身を翻し、オービスの剣を躱して後ろに飛びすさる。
オービスが追って斬りかかる。
でも、黒竜は攻撃を躱しつつ、適度な距離を保って移動する。
ゴロゴロと喉を鳴らして前足を地につけ、伏せの姿勢で甘えるような仕草を見せる。
……さっきとは明らかに違う?
『催眠よ! 主とオービスを、子供だと思わせたの。あの竜に!』
耳元で平穏が囁いた。
「そんなことできるの!?」
『ええ、もちろん! ……ごめんね、豚にできればもっと良かったんだけどね』
この、豚が最上位種みたいな豚絶対信仰なんだろう。
「竜がいいに決まってるよ! ぼく、本読んで憧れてたんだ。竜と仲良くなって空を飛べたらなって!!」
「おい、リュテ! この竜……」
オービスがぼくに話しかけたその時。
トニトルスは竜の口に飛び込み、雷撃を放った。竜は爆散し、辺りに血の雨が降り注ぐ。
「えっ……?」
ぼくは目を疑った。
だって、竜と仲良くなれたら素敵なことだ。
そう思ってた。
炎竜より強い黒竜が住み着けば、この村は安泰になるはずだった。
無益な殺しもしなくてすんだ。
人以外の生き物と仲良くなれるチャンスだったのに――――!
「……主が悪いのです。我以外を可愛がろうとするからだ」
……ああ。
これは、警告なんだ。
これ以上、みんなと仲良くなったらこんな風に簡単に命を奪うと――――
「リュテ、大丈夫か? すごいな、おまえの魔剣は。ありがとう、雷霆殿!」
トニトルスの言葉が聞こえないオービスが、彼に礼を言う。
何も知らないみんなを巻き込めない。
「……絶交だ、トニトルス。二度とぼくの目の前に現れるな」
「嫌ですな! 悪いのは主の方で……」
風が吹いた。
そう感じた一瞬で、植物の蔓と根がトニトルスを拘束していた。
『くっ、離せ、この美少女め! 可愛ければなんでも許されると思うな!?』
トニトルスが放電したけど、衝撃はすべて蔓を通って地面に流れてるようだ。
「ラキ……!」
「リュテ、ちょっと雷霆さん借りるね?」
「えっ!? でも……」
『離せ美少女! 我が欲しいなら我を賭けてまず主と決闘するのが筋であろう! 痛い!! やめろ、わかった、抵抗しないから締めないで!!』
ラキは笑顔だけど目が笑ってない。
トニトルスも逆らえないみたいだし、ぼくも従おうと思った。
ラキは可愛いけど先生の娘だ。
本気で怒るとめちゃくちゃ怖い時がある。
ラキがトニトルスを連れて行った。
洞穴はシェルターの他にも、切り立った崖沿いにいくつもあって、そのうちのひとつに入ったんだ。
ドーン!!
洞穴の中から紫の光が漏れた。
さっき竜が岩を落としたときと同じ音がした。
「……終わったのですか?」
シェルターから、村長が顔を覗かせる。
「ああ。3体とも死んだ。当面は大丈夫だろう。黒竜の骨があれば、他の竜は絶対に近づかないからな」
黒竜は最強生物と言っても過言ではない。
それが屠られているということは、さらに強い個体の存在を証明する。
竜であれ他の魔物であれ、その縄張りに安易に踏み込んではこない。
「やったー!!」
「聖騎士さま万歳!!」
「ありがとうございます、オービスさま!」
オービスが村の人たちに揉みくちゃにされてる。
「俺ひとりの仕事じゃないさ。あそこにいるべべちゃんの協力が大きかった。ありがとうべべちゃん、さっきは助かった」
「ぷふっ」
村民の皆さんが、我慢できずに吹き出してる!
「ありがとうございます、べべさま!」
「べべちゃん、ありがとう!」
ぼくの渾名の破壊力……。
もっとカッコいい名前がよかったー!
*
ラキが帰ってきた。
ひとりで。
「トニトルスは?」
「喧嘩したら地下牢。それが修道院の規則よ」
ラキがあんなに強いなんて知らなかった。
怒ってるし、これ以上触れない方がいいな。
*
この日は、帰るにはもう遅い時刻だったから、村で1泊させてもらうことにした。
夕食は、そう!
竜の焼肉パーティーだ!!
イスの村は竜の襲撃で無事な家がほとんど無かった。竜が中に人が隠れていないか、確かめるために壊すからだ。
でも、人々の顔は来た時と違って明るかった。
「ほら、たくさん食べな。竜は赤身が多いから肉の旨味が強いんだ。おすすめはこれ。塊肉のローストだ」
外に簡易的な肉焼き台を立てて、オービスが大きな塊肉を回しながら丁寧に焼いてくれた。
噛むほどに肉汁が溢れる赤身肉に、ハーブソルト。粒マスタードをたっぷり。
黒竜が死んだのは悲しかったけど、みんなで外で食べるお肉!
達成感と打ち上げ感!
最高すぎる!
「もむもむもっもももむ!!」
訳:なにこれめっちゃうまい!!
「あははは! これも食べていいよ、べべちゃん。肉は逃げないから慌てないで」
ラキの機嫌が直ったし良かった!
オービスは竜を倒すのも肉を焼くのも上手だ! ずっと一緒に討伐してたいな!
ぼくたちは、竜焼肉を堪能して翌日帰路についた。
もちろん、エギルの剣作りのお土産に、炎竜と黒竜の素材も少し持ち帰った。
☆エギルはパン。オービスは肉担当である。




