第47話 ドラゴン討伐(2)
イス村は国境山脈の末端にある。
世帯数30ほどの、山間の農村だ。
村に到着するとオービスは、竜災害時の避難シェルターになっている洞穴で、村民たちと合流した。
洞穴の入り口には竜避けと耐火耐衝撃の魔法陣が設置され、人間しか入れない。
有事に備えて食料や通話用回線があるから、救援が来るまで外に出ることなく待機できる。
間口は『エイギョーサン』の知識によれば2メートルほど。
中に10メートルほど進むと大きく開けた構造になっていて、中には老若男女あわせて50人ほどの人が身を寄せ合って避難していた。
「聖騎士さまだ!!」
「オービスさま!!」
「聖騎士さまが来たぞ!」
すごい歓声が上がった。
オービス、有名人なんだな。絶大な人気と信頼感だ!
オービスは片手をあげて歓声を遮り、村長と話しはじめる。
「騎士修道会だ。現況を聞こう」
村長はワイズさんという40代くらいの人だ。
「山脈の中ほどに竜の巣山と呼ばれる小高い嶺があって、もともと炎竜のツガイが棲んでいました。山村地区には竜避けの障壁があり、平時には生活に困ることはなかったのですが……」
村長の話によれば、通常は巣を守るため1体ずつ交代で移動する炎竜だが、初夏頃からは急に、2体同時に村を襲うようになったらしい。
「卵が何らかの原因で死んだか。あるいは」
オービスが眉をひそめた。
まだ繁殖期の竜が巣を捨てるのは卵が死んだか、より強い個体が縄張りを脅かしたかのどちらかだ。
前者ならば新たな卵を産むために栄養を求め、2体が人里を襲う。
後者ならば最悪、気が立ったツガイとさらに強い攻撃者の3体を相手にすることになる。
「ラキはここで村民をみてくれるか?」
「わかった」
「べべは俺と――」
ドォオン!!
オービスが言い終える間もなく、大きな衝撃があり、岩肌の天井から砂や小石が降ってきた。
オービスが抜剣して駆け出す。
ぼくもついていく。
朱色に光る鱗。
猫のような縦長の瞳孔の金瞳。
二メートルほどの入り口をいっぱいに塞ぎ、巨大な炎竜の頭が侵入してる!!
竜避けの魔法陣が設置されてた洞穴の入り口に、大きな岩をぶつけたらしい。
岩壁や地面が砕けたことで魔法陣が決壊したんだ!
「くそっ、賢いな」
道中で襲われず、順調に着いたのは、一網打尽でご馳走食べ放題の機会を待ってたからかもしれない。
逃げ場はない。
炎竜が顎を開く。
喉の奥の発火機関が灼熱した。
3000度を越える炎を浴びれば人間など一瞬で焼き尽くされてしまう。
耐火結界を張るラキの横をかすめ、矢のように飛び立ったもの――――
「トニトルス!!」
大口を開けた炎竜の喉へ飛び込み、体内で最大級の雷撃を放った!
竜が爆散した。
凄まじい轟音と衝撃、爆風に続き、竜の血が降り注ぐ。
「さあ、主。我のかっこよさを褒め称えてください!! そんなチンケな双剣などでなく、我を握ってくだされ!!」
「……ありがと……!」
褒められ待ちの犬みたいなトニトルスの後ろに、羽音をたてて2体目が降り立つ。
竜の巨体が四散し、塞がれていた入り口が開いた。
オービスが大剣を抜きながら外に飛び出す!
口を開く間もなく竜はバサリと舞い上がる。
オービスが追う。
「2体目。ツガイのもう1体ね。皆さん、一ヵ所に固まって! 結界を長持ちさせるため、魔力を抑えたいの!」
ラキは村民に密集態勢を指示しつつ、彼らの前に防御結界を張る。
ぼくは!
ぼくもオービスに加勢しなきゃ!
「べべちゃん! オービスが指示するまで待機よ。
足手まといがいたら彼まで危なくなる!」
駆け出そうとしてラキに止められた。
ぼくは、岩壁が欠けた入り口でオービスを見守る。
オービスは器用に魔法で空中に足場を作りながら、素早い跳躍で移動する。
先生やミスリルには、空を飛ぶ竜には飛び道具か行動範囲の限定が定石だと習ってる。
ぼくは首輪のせいで攻撃魔法が使えないから、ミスリルが魔法付与した精霊弓を持ってきてる。風の精霊で威力を高め、命中した獲物の動きを封じる矢だ。
「では主、我があの竜めを仕留めたら、我を捨てずに愛剣として可愛がると約束してください。でないと手元が狂って、あの赤毛の坊主の首をはねるやもしれませぬ」
こいつ――――!!!
☆トニトルスのヤンデレ化が加速していく……!




