第44話 魔剣と通貨攻撃
修道院の南東にはエギルの鍛冶工房がある。
エギルが剣を打ち、ミスリルが雷霆の魔力分析をしているあいだ、手持ち無沙汰のぼくはエギルの仕事を手伝いながら作業を眺めていた。
「なあ、リュテ。雷霆の複製作るのは良いとして、100本も何に使うんだ?」
「詳しくは言えないよ。でも、この修道院とみんなを守るために必要なんだ」
「魔剣献上と関係してるなら、作った俺らの命にも関わる。知る権利あると思うけど。なに企んでる?」
「…………」
エギルは雷霆の黒金色の刀身を見ただけで配合を見抜き、玉鋼を作った。それを潰し、火入れして重ねて叩く。
エギルの仕事は精密で美しい。それに、手際がいいから仕事は早い部類なんだと思う。
7日目には寸分たがわぬ剣を鍛造した。
「はじめは『雷霆』とそっくりな剣を献上すれば王様に近づけるのかと思ってた。
でも、ラキの集めた噂話を聞く限り、魔剣献上は冒険者狩りの罠みたいだ。
護国九剣は国を守るための剣なのに、雷霆のせいで死人が出て、ぼくみたいに王様に殺されかけたりする。そんなのおかしいよね?
雷霆と同じ剣をたくさんばらまけば、王様も馬鹿馬鹿しくなってやめると思わない?」
エギルは砥ぎの手を止めてぼくを見た。
「自分で考えたのか、それ?」
「ううん。……本で勉強した」
営業さんの夢を見るようになってから、誰に学んだでもない不思議な知識や概念が、ふと閃くことがある。
営業さんの知識に基づけば、これは敵国の通貨をインフレで無力化させ、国力をそぐ経済戦争の基本、通貨攻撃。
雷霆の複製をばらまくのは、その魔剣版だ。
「でも、ぼくの見通しが甘かった。剣を1本作るのも大変なんだね。よく知りもしないで無茶なこと言ってごめん、エギル」
玉潰しから焼き入れ、鍛冶砥ぎ、銘切りまで。
こだわりの強いエギルが雷霆の模造剣を1本作るのに、刀身だけで7日かかるんだ。
あとは鞘師、白金師、砥師らの作業で、鞘や柄の始末と装飾が施される。
普通は別の専門職人に持ち込んで仕上げてもらうんだけど、エギルは全部ひとりでできてしまう。だからこそ、完成には時間を取られる。
どうしよう。一刻も早く複製を作ってトニトルスはどこかに遠ざけたいところだけど……
エギルもミスリルも雷霆の信奉者だ。トニトルスを捨てる計画を2人に知られるのはまずい。
『我は永い時の中、理想の主を求め沈思黙考してきました!!』
「ひゃあっ!!」
トニトルスが主の心を読んで牽制してくる。
『気が強い女騎士に抜いて欲しい(物理)!
綺麗なお姉さんに無理やり奪われたい(強盗)!
清楚な姫に監禁されたい(収納)!
みんな捨てがたく我には選べなかった!※
その夢を一度に叶えてくれる、それが主だと直感したのです! 一度でいいので我を握って下さい!』
「ちょっと意味わからないし、やだよ!」
トニトルスが長い間孤独だったのは知ってる。でも、ぼくには制御しきれず、少しでもみんなが危険に晒される心配があるなら、そばにはおいておけないんだ。
『馬鹿なの? 節穴なの!? 主は男の子よ?』
『違うな! 聞くところによれば主はキャバクラなるところで、女の姿で仕事をしている! 美しい女の集う地上の楽園で! つまり主は男の娘という至高の存在!』
「違わないよ、普通に男の子だよ! ぼくの女装は仕事の一環で趣味じゃないからね!?」
『主よ! 次はいつあそこに行かれますか?
我もぜひにお供させて頂きたく!!』
『最低ね! 女は見世物じゃないのよ!?』
トニトルスの女好きをポケットの中から罵るミゼリ。
女好きとフェミニズムの戦いがはじまった。
この二体の相性は最悪だ。
すごくうるさい。
「問題が本数の確保についてなら、私の発明品が役にたつかもしれません」
「えっ?」
「こういうこともあろうかと、私の部屋には元素複製機があります!」
刀身と鎬を繋ぐ部分に魔晶石を嵌め込んでいたミスリルが、急にオタク化した。
「どういう想定してんだよ!?」
「リュテの思考や記憶の中には、私の知らない知識や概念など、興味深いものがたくさんありました!
その中の、『コピー』や『3Dプリンタ』を魔法技術に取り入れてみたのです!
私は、あなたと知り合えて本当に幸運です!」
「また勝手に読んだー! え、じゃあ?」
「エギルが仕上げたこの1本で、早速複製を試してみましょう!」
ミスリルの天才ぶりは、ぼくの予想を遥かに越えていたみたいだった。
注:※妄想だから




