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幽閉王子と魔剣の国~魔剣に溺愛されたぼくは誰も殺さず伝説の王になる~  作者: キマモリニコ
第2章 魔剣工房の発足
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第37話 噂



「お父さん!」


 先生の書斎に、ラキが入ってきた。


「エギルと買い出ししてきたんだけどね!」


 状況が落ち着くまで室内待機のぼくは、先生の書類仕事の手伝いをしてる。


 ぼくも仮面をつけて一緒に買い出しに行きたかったけど、こういうお手伝いも嫌いじゃないよ。


「みんな王様の悪口言って、リュテ王子に戻ってきて欲しいって噂してた。これっていいこと? まずい状況?」


 ラキは頬杖をつきながら先生を見上げた。


 ぼくは先生が書いた手紙のインクが滲《にじ》まないように、書面をふうふうする重大任務中でしゃべれない。


 話もよく聞いてなかった。


「各地に隠れ潜む前王派に廃王子の噂が広まれば、小僧が知らぬ間に旗頭にされ、一斉蜂起から粛清につながる。意図的な情報戦略かもな」


 院長は机で書き物をしながら、手を止めずに返事をする。


「先生、ぼくのこと心配!?」


「ああ。おまえは問題を起こしすぎ、おまえを預かる俺の立場はどんどん悪くなる。

 この上まだ煩わせるならおまえは俺が殺す。わかったら黙って俺のために金を稼げ」

 

 相変わらず言い方はあれなんだけど。


 さいきん、先生の言動が前よりほんの少しだけ柔らかくなった気がする。


 だからぼくは嬉しくなって、何回でも確認してしまう。


「心配なんだ! やったあ!」


 どんな形であれ、ぼくは心配されたい男だ。 

 それは胸を張っていえる!

 

「バカか、命を狙われたばかりだぞ。少しは考えて身を慎め」


「はぁい!」


 この前の伝令は、実質的には雷霆を利用したぼくの処刑を意味するものだったそうだ。


 公《おおやけ》には、ぼくは死んだことになってるから、先生も監視の目を前ほど気にしなくていいと思うのに。


 ……まえに先生がスパイのカラムを助けなかったときは、味方にも容赦しない恐ろしい人なのかと思った。実際かなり酷いし。


 でも、カラムが先生のことも監視していたのだとしたら、先生が彼にしたことはあとで先生の立場を悪くしたりしないのかな?


 そこは気になる。


「手が止まっているぞ」

「あっ、はい!」


 こっちを少しも見てないのに、なんで後ろにいるぼくの仕事ぶりがわかるんだろ!?


 カラムにはパンの恨みがあるけど。

 でも、死んでせいせいしたというほど悪い人でもなかった気もする。


『主に無体を働いたのだ! そこは万死! 絶対に譲りませぬ!!』


「うわ!?」


 ぼくの横でふわふわ飛んでいたトニトルスが、突然の怒り心頭。バチバチッと音がした!


 魔剣たちは人の心を勝手に聞いて話しかけてくるから、びっくりする!


『心配は無用だ。ギルフェレスは伝令に消し炭どもを確認させたあと、奴らを蘇生した。

 余計なことを言わぬよう冷凍保存したが、小僧が望むなら奴らの歯を全部へし折ってやろう。

 減らず口も叩けず一石二鳥。待っていろ』 


 グラキアリスは物騒発言が止まらない。


「やめて!! 絶対やめて!!」 


「あははは! お父さんの剣、こないだまで無口だったのに。なんでお父さんに言い方そっくりなの!?」


 彼の声は、精霊耳をもつラキには聞こえるから、爆笑が止まらない。


「あっ、そうだよ! 氷河の声は先生と同じだ! 

 なんか誰かに似てると思ってたんだ! どおりで氷河と話すと鳩尾がしくしくすると思った!」


 先生は自分だけ聞こえないから少し怪訝な顔をして、


「氷河はいま、おまえになんと言ったんだ?」


と、すごく忙しそうなのに書く手を止めた。


「お父さんが冷凍保存してるカラムのこと。剣がカラムの前歯全部折るって、お父さんの声真似して言ったの!」


「…………」


 先生は前より少しだけ優しい。

 だからぼくは勘違いしてたのかもしれない。


「先生、グラキアリスに母上を元に戻……」

 

 全部を言うまえに、ぼくは首を鷲掴みにされ、壁に強く押さえつけられた。


「それ以上言えば、首を折る。勘違いするな、俺はおまえの味方ではない。不用意に本心を口に出すな」


「……はい」

 

トニトルスとグラキアリスが怒らないから、先生に殺意がないのは、もうわかってる。


 先生の言動には、揺らぎがある。

 

 体から黒い霧が出てるときは怖い。


 出てないときは比較的穏やか。

 

 そしてその黒いのは、ぼくと話してるときに出てきやすい。

 

 ぼくを助けてくれたあとだし、うまく頼めば母上を救えるかもと思ったけど、


「俺を引き入れたいなら、相応のメリットと経済効果を数値化して見せろ」


って言われて心折れた。

 

 なぜ院長はこんなにお金に汚いんだろう?


 修道院は王公貴族の寄進で広大な領地を持つ大地主で、領民からの税金や討伐報酬もある。


 公営施設だって沢山運営して、荒稼ぎしてるのに。


 いや、ぼくだってこのさき諸々の計画の具体化には豊富な資金がどうしても必要なのは確かだけどね。

 

 雷霆のレプリカと認識阻害、透明化グッズ、転移陣。どのくらいかかるか見当もつかないよ。


『大丈夫よ主。認識阻害や透明化アイテム、そこらのお面やシーツがあれば、わたし作れるわよ?』


「うん?」


『わたしよ、『平穏《エウテルペ》』!』


 左(・)耳(・)から、声が聞こえた!


 恐る恐る触ってみると、先生がつけてくれた四つのピアスのうち、左下のが全く身に覚えのない剣型のピアスになって、ぶら下がってる。

 

 ……剣のかたち。

そして喋(しゃべ)る。

  

さらにぼくは、剣(・)を(・)握(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)。


「うわぁあああ!!! 魔剣っ!!」

 

 修道院には絶対いなかった新しい魔剣が、いつの間にかぼくの耳に!!


 そして契約完了しちゃった!!

 

「わあ、魔剣また増えてる! あっ、その子、妹さんのとこにいた……」


『そう、平穏の『豚じゃないほう』よ!』


「あー、あれびっくりしたよ! ハイル王子、絶対死んだ! って思ったもん!!」


 ラキの声を聞くと先生がガタン!と椅子を鳴らして歩いてきて、ぼくの耳朶《みみたぶ》を引っ張った。


 すごい怖い顔だ! 

 殺されるかもしれない!


「そ、そんな怖い顔で睨まれても困るよ。ぼくだっていま気づいたし……!」


『『平穏』がなぜ!? 『浄火』以外の護国九剣《ノヴェムグラディア》すべて揃っただと!? このパン好きの鼻たれ小僧が、真王だとでもいうのか!?』


「あははは! やめて氷河さん! お父さんの内面モノマネ上手すぎるよー!!」

 

 ラキが涙を流しながら笑いころげてる。


『ぐぬぅううっ!! どこまでも主に媚びる犬のような奴め!!』


 トニトルスの嫉妬も止まらない。


「先生、心のなかで、ぼくのことそんなあだ名で呼んでたんだ……。えっ、でも先生の内面て、こんななの!?」


「うん、そっくり!! 軍人だから顔に出さないだけで、驚いた時はわりと賑やかだよ~!」


 グラキアリスはクールな性格だと思ったのに淡々と笑いを取りに来る!


 先生が睨む!!


 ぼくは見なかったふりをして、書類の整理を再開したよ!


『ねえ主! 試しにその手紙を透明にしてあげようか!』


「あっ、これはダメ。あとでお願いするよ! えっと……?」


『『平穏《エウテルペ》』よ、主! やっぱり忘れちゃってた。まぁいいわ、よろしくね!』


「うん? よろしくね?」


 ぼくは乾かした手紙に目をやった。

 

 書面には、

『聖騎士団合同軍事演習』と表題されている。


『騎士修道会所属全騎士に告ぐ。

このほど騎士修道会本部保管の『雷霆』および『護国九剣《ノヴェムグラディア》』が、二百七十七年ぶりに主を認めた。

 建国記に依れば、これは戦乱時代の開幕を意味するものである。

 ついては、当本部に於いて戦時を想定した合同演習を実施、積み上げるものとする。

 日程は各支部と調整の上追って通達する。

 騎士修道会総長・聖騎士団団長ギルフェレス』


「聖騎士団団長! 先生、実はすごいひとだったんだね!ただの怖い先生じゃなかったんだ!


 聖騎士《パラディン》って、神話とか伝説に出てくる万能超絶エリートのことだよね! そのトップなんてすごいや!!」


「何を寝惚《ねぼ》けたことを言っている。俺の試験に合格した以上、おまえもその聖騎士《パラディン》だ。騎士修道会は聖騎士団の別名だからな」


「えっ……!?」




 ……なにそれ、初耳です……。



☆ふうふうする重大任務。重要書類でした




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