第27話 雷霆
「くそ、なんだよあの犬と花!
入る時に皆殺しにしたのに生き返ってやがる!
もう二人やられてるぞ。どうするカラム?」
「ばか! 名前呼ぶんじゃねえ!
……院長の罠だな。ふつうに出入りできてたから気づかなかったが、侵入者には反応するのかよ」
この声、間違いない。カラムだ!
落ち着いて状況整理だ。
声と足音、気配から侵入者の数は四人。
うち一人がカラム、らしい。
「カラム、何でこんなことするの?」
「あの娼館の客には、忠義に篤い前王派が、かなり混じってる。
おまえを旗頭に国家の転覆を企む輩がな」
「そんなことしたら、カラムだって謀反を疑われるでしょ。どうして……?」
「おまえは奴らを一網打尽にする餌だ。 ギルフェレスも責任問われて処罰。一石二鳥だろ?」
廊下に出て階段を降り、玄関前の広間に着いた。
男たちが立ち止まったから、ぼくは指輪に仕込んだ針で担ぎ手の男の背中を刺した。
「痛えな、このガキ!!」
叩きつけられる時に受け身を取ったけど、痛みで急には立ち上がれない。
袋の上から誰かに蹴られた!
「おい、商品だぞ。傷つけるな!」
「そうです、どうかやめて下さい! 主を傷つけるのは!」
「だってこいつ、刺しやがった!」
……『主』と呼んだ声に聞き覚えがある?
男たちが揉めてる隙に、夜着に忍ばせたナイフで袋を切り裂き転げ出ると、覆面の男たちの中にベネディクタスがいた。
「ベネディクタス……なんで?」
「誤解しないで下さい、私はこの者たちの仲間ではありません!
私の衣には指向性の認識阻害があって、あなた以外の者には見えないのです!
必ずお助けしますから、どうか内密に!」
「くそっ、この……!!」
ぼくを蹴ろうとした男を必死に止めるベネディクタス。
でも、細身だからか男の腕力に敵わず振り払われる。
「……なんか、いい匂いがしないか?」
一人が鼻をひくつかせ、男たちの血走った視線がぼくに注がれた。
「おい、ずいぶん別嬪だな。本当に男なのか?」
「……確認……してみるか?」
嫌な目つきだ。怖い。
「ぼくは、男だよ……?」
何だ、この流れ?
男たちの目つきが異様だ。
手を伸ばしてじりじりと近づいてくる。
飛びかかってきた男の喉仏を蹴る。
別の男が棒で殴りかかるのを躱し、膝裏を蹴って転ばす。
三人目の男の右肩を刺し、利き腕を封じる。
先生の訓練の成果が出てる!
落ち着けば、いける!
でも、ほんとに迂闊だったんだけど、ぼくはこの時初めて気づいたんだ。
ぼくが刺した男の肩から血が滲むのを見て、ぼくは吐いてしまった。
自分の行動の因果を深く考えていなかった。
練習では気づけなかった。
先生はぼく相手に怪我なんかしないし、鋼鎧蛇はミスリルが魔法で出した疑似生物だから。
刃物を使えば人は傷つき、血が流れる。
強い痛みや憎悪は、首輪で制御されたぼくにも伝わってくる。
ぼくは、どうやら血が苦手だ。
人を傷つけることに耐えられない。
放心したぼくは後ろから殴られて膝をつく。
髪を掴まれ、服を引っ張られた。
「なんだよ、やっぱり男じゃねえか!」
「はっ、王子が女なわけねえだろうが!」
「違いねえ」
怖かった。
ぼくは放心したまま、その声を聞いていた。
「なあ、妹の方はどうかな?」
「馬鹿だな、王宮の侍女さまだぞ。警備が何人いると思ってるんだ」
許せない。
ミュゼにも危害を加えられたら……。
許せない、自分が。
ぼくは、なんて幼くて非力なんだろう。
……力が欲しい。
他者に踏みつけられない力が欲しい……!
『……主よ!』
『主よ、我が名をお呼びください!』
……地下室からいつも聞こえた、あの声?
『我は、あなたを知っている!』
『二百数十年もの微睡みのなか、人になる夢を見ました。我が魂に触れるあなたの夢を何度も見た!』
『あなたも我の夢を見たはず!』
『我の願いをご存知のはずだ!』
『どうか我が名をお呼びください!!』
――――――『我が名は!!』―――――――
「千剣の王、雷霆!!」
名を呼んだ瞬間。
世界の終わりのような轟音と地響き。
閃光が目を灼く。
衝撃波で石屋根と床が吹き飛ぶ。
眩い光柱が空に突き立ち、紫電を放つ大剣が現れる。
「真なる王のご帰還に祝福の万雷を!
我が名は千剣の王、雷霆!!」
鐘が鳴り響く。
衝撃波が森を挟んだ教会と、その鐘楼を直撃したみたいだ。
かつて国中に響き渡るほどの音量から「万雷」と名づけられた教会の大鐘。
二百数十年前の落雷で修復不可能なほど壊れて、今は「不動の万雷」と揶揄される存在になっていたのに。
――――
この国の建国記には、冒頭に護国九剣の伝承が記されている。
『この国に真王が立ちて雷霆の剣を握るとき、祝福の万雷が不動の大鐘を鳴らす。
雷霆はすべての魔剣の王にしてその性、苛烈なり』と。
☆伝説の真王、爆誕!




