第25話 洗礼式
洗礼式当日。
騎士教会は、騎士修道院の森をへだてて王都側の、同じ敷地内にある。
洗礼式はふつう十歳になったら行けるんだけど、ぼくは幽閉されてたから、二年遅れてきょう参加するんだ。
ラキとセイルが一緒にきてくれたから、緊張するけど楽しい!
先生は、今日はこの教会の司教としてきてるから、司教の正装。黒い詰襟の司教服と司教冠がよく似合ってる。今日はごきげんだから素直に認める。
洗礼式では、子どものスキル鑑定とか適性が調べられる。
有益なスキルを持った人は国の役人やいろんな団体がスカウトして、子どものうちから英才教育をするんだって。
スキル鑑定の内容は、予言の石板に触れると示される。それ以後はスキルは自分の意思で自由に閲覧できる仕組み。
ぼくのスキルは……。
リュテ・アルベンシス 12歳
【種族】 半樹霊
【職業】LV6 修道騎士(※従騎士)
【HP】 120
【知能】232
【魔力】 26
【習得魔法】 精神感応 接触感応
身体強化 治癒魔法
【剣術】225
【体術】102
【営業】382 分析 精神復元力
交渉術 自己管理
【隠しスキル】??? ??? ???
【隠しジョブ】??? ??? ???
首輪の呪縛が干渉して読み込めないのかな。「?」がいっぱいある。
「レベル6か。デビュー前にしては上々だ。
スキルは、っと……なんだこりゃ、営業?
修道騎士なのに商人みたいのがまじってる」
「みせてみせて! ……ん、営業ってなに?」
セイルとラキがのぞきこんでくる。
「営業……!」
具体的に何をするスキルなのかさっぱりだけど、ぼくの胸は高鳴った。
だって、あこがれのエイギョーさんと同じスキルがあるかも知れないってことだ!
やったあ!
「残念だったな。《《もしや》》と思ったけど。
でも、この隠しスキルとジョブ。この先の努力で転職チャンスあるかもだし、気を落とすなよ!」
セイルにしては気をつかって励ましてくれたんだと思う。ぼくの職業欄に「王子」の文字がないのを。
「うん、大丈夫。気にしてないよ!」
ぼくは王位の奪還を望んだことはない。なにより、ずっと探してた氷剣の男が目の前にいるんだ。絶対に離れない。
先生を倒して剣をもらえば、ぼくの望みの半分は達成と言える。
「わああん!!」
ぼくのあとに鑑定を受けた子が、なぜか泣き出してしまった。
「どうしたんだろう?」
ぼくがポカンとしてるのをみて、セイルが教えてくれた。
「ああ。貧しい家の子は、スキルで一発逆転を夢見て育つからな。希望通りのスキルじゃなかったから落胆したんだろ」
あっ、先生がその子の頭に手を伸ばした!
髪の毛をつかんで鳩尾に膝を入れられる!
助けなきゃ!!
「……大器晩成といって、大物ほど育つのに時間がかかると言われるんですよ。今日はスキルなしでも、遅れて現れる人だっています。
ほら、泣き止んで、食事をしていきなさい。何の仕事に就くにせよ、まずはたくさん食べて強くならなくてはね」
「はい、司教さま!」
「ありがとう、司教さま!」
……あれ……誰?
先生にそっくりな人が、すごく優しい笑顔で子どもの頭をなでた。
「すごーい! お肉がいっぱいある!」
……二重人格とかかな。
「かっこいいでしょ、お父さん!」
「うん、かっこいいな! 普段はお金に汚いけど、使い道はちゃんと優しいからな!」
ラキの先生布教。
意外なセイルの賛同。
どこまでも冷徹な人だと思ってたのに。
二人の口ぶりでは、子どもたちに向けた気配りと、どこか寂しげで慎ましい笑みが本質なのではと錯覚する。
……ああ、納得した。
ラキはいつもあの顔を向けられてるから、先生を大好きで尊敬していられるんだ。
……先生が酷いのは、ぼくにだけだ。
五年間、ぼくには一度だってあんな顔をむけてくれたことはない。
優しい言葉をかけてくれたことも。
両親を凍らせたあの氷剣の騎士。
先生のことが、ますますわからなくなった。
そして、どうしてだろう?
嫉妬や悔しさに似た感情、失望を感じた。
先生は敵側の人なのに、ぼくは知らないうちに何かを期待してしまっていたのかな。
―――――
このあと、午後から騎士教会は魔剣選定の会場のひとつになる予定だ。
王宮の役人や冒険者、工房主らがちらほら集まってきている。
ぼくたちは受付の役人が使うテーブルや、筆記具の準備を手伝った。
ラキと話せて楽しそうなセイルを眺めながら、ぼくは営業のスキルのことを考えてた。
最近、外出できるようになって気づいたんだ。
この町はとても貧しいんじゃないかって。
貴族のお屋敷は石造りで立派だけど、庶民の家は木造で小さい。
木造だからよく火事がおきて、何軒もの家がなくなる。
市街の中心は道路が砂岩の切り出しタイルで舗装されてるけど、郊外の道は土のまま。
あちこちに大きくて深い水溜まりや穴がたくさんある。子どもが落ちたら危ない。
高級住宅街には水道が通ってるのに、貧民街には地区ごとに共同の小さな井戸ひとつで、大勢が順番待ちで使ってる。
貴族は上等で美しい身なりだけど、庶民の服は粗末で子どもたちも小柄で痩せている。
だからセイルが言ったように、スキル鑑定で一旗揚げるのが希望になるんだ。
庶民がギリギリの生活してるのはわかった。
食生活は、修道院の方が質素かもだけどね。
でも、……ぼくは変だと思ったんだ。
エイギョーさんは、国がみんなから集めたお金 で、みんなのために道路や水道を作るって、いつも言ってる。
ぼくは気になって、先生に聞いてみた。
「ねえ、先生。貴族や聖職者はお金持ちなのに、なんでほかのみんなは貧乏なんだろう?
水道も下水道も道路整備も国の仕事なんでしょう?この国の税金は、みんなのためには使われてないの?」
振り返った先生は目を見開いて、今まで見たことない険しい表情をしていた。
武門貴族出身の先生はいつも無表情で、なにを考えてるのか分かりにくいのに。
「税の使いみちは王政批判にあたる。二度と口に出すな。命が惜しければな」
氷剣を喉元に突きつけられた。
……先生のまわりに、あの黒い霧が揺らめいている。
明確な殺意を向けられて、ぼくは口をつぐんだ。
鳩尾がきゅっと冷える。
「受付の設営終わったし、帰ろうぜ!」
セイルが呼んでくれて助かった。
ぼくは、暗い気持ちで修道院に戻った。
本当は自分でも気づいてる。
どうかしてる。
ぼくは期待していたんだ。
仇であるはずのあの人に。
あの人が殺した父の代わりの……父性を。
☆次回、新展開




