第24話 情報収集
☆絶対やらかす娼館任務
二日後の教会行事を控え、娼館のクラブには冒険者や役人、聖職者らが多く訪れていた。
ひとつめは洗礼式。
これは、子供が教会で初めてスキル鑑定を受ける日。
子どものうちに自分の適性を知ることで将来の職業や進学先が選びやすくなるらしい。
稀に出る特別スキル保持者を確保したい団体やギルドは、この時期、金の卵を見逃さないよう大きな教会にはスカウトを派遣するんだと先生が言ってた。
ふたつめは魔剣献上会。
騎士修道院裏の騎士教会でも洗礼式の後に開催するんだけど、なぜか献上会の後に冒険者の失踪が相次いでる。
王様の密命という噂があるけど確定ではない。
王宮役人、聖職者などの関係者から情報を得たいというのが、先生の狙いらしい。
聖職者たちが入館した。
彼らは儀式で使う乳香の匂いがするからすぐわかる。
もちろん先生からも、よくこの香りがする。
松の樹脂のような清涼さに、微かな苦味と甘さが同居した癖になる匂いだ。
エギルが無愛想ながら綺麗な所作で奥のテーブルに案内したのは、上客だろう。
お店のお姉さんたちが、またエギルを見つめて陶然としてるな。
おっと、いけない。
会話からして前のふたりが王宮の役人。
続いたふたりが、匂いからみて聖職者。
氷剣の男、先生もその客のテーブルにつく。
先生が油断してそうなところに斬りかかりたい衝動はあるけど、それは訓練で晴らす。
ぼくはこの前仲よくなったすてきなお姉さん―――レゼさんのヘルプについて、今日もお客さんにフルーツ盛りをおごってもらっている。
「君はすごく可愛いな。新人かな? 名前は?」
お客さんは、身なりも品も良いおじいさんの二人組だ。
「もももふ!」
頬袋がいっぱいで答えられないので、とりあえず笑顔でうなずいておこう。
「ははは、いい食べっぷりだ。田舎から出てきたのかな。すれてないとこがまたいいね」
おじいさんたちはいろいろ話しかけてくれるけど、質問されると集中して食べられないな!
「ん!?」
おじいさんたちの口にもフルーツを突っ込む。
―――――
「……魔剣選定ってなにやるの、会場どこ?」
「各教会施設と役場。ギルドで案内出てたぜ」
魔剣選定!!
隣のテーブルから気になる話が聞こえてきた。
二十代かな。年齢のわりに身なりも羽振りもいい三人。高級フルーツふたつとお姉さん三人、うん、いくらだか忘れたけど太客!!
リーダーらしき人の装備品も武器も伝説級だし、高ランクの冒険者パーティーとみて間違いない。
「知らないのか。今の王さまは、「護国九剣」のどれにも認められなかったから、似たような魔剣探してんだって」
「護国九剣の魔剣ていうのが王を選ぶのか?」
「ああ、そう言われてる。主以外が触れると拒まれて、命に関わるようなケガをするらしい。
国の儀式は護国剣の威力をお披露目する行事が、結構あるからな。体裁を整えたいんだろ。
形式的に王は「氷河」の主となってるけど、ほんとは模造品で、儀式は影武者が代行してるって噂だ」
「前の王さまの氷像がしばらく凱旋門にさらされてたけど、そういうことか。悪趣味だったな」
「なるほど、だから魔剣の買い取りとか献上とかでみんな騒いでるのか」
「ああ。王さまを満足させる魔剣を献上した者には褒賞が出て、魔剣を打ったものは王が召し抱えるって話だ」
ぼくはフォークを落とした。
体が勝手にふるえる。
父上を殺しただけでなく……遺体を、なに?
涙が溢れて息が乱れる。
今すぐ掴みかかって聞きたい。
(どんな時も冷静を失うな)
先生の言葉を思い出す。
目的を見失うな、ぼく。
同じ失敗はするな!
激情をフルーツといっしょに飲み込む。
「おやおや、田舎の話をしたから、ホームシックになったかな。おじいさんが悪かった、ごめんね」
「……ううん。ちょっと父う、お父さんのこと思い出しちゃった……」
涙を袖で拭いていると、おじいさんはぼくに金貨を握らせて、
「今日はもう休みなさい。困ったときはおじいさんになんでも相談しなさい。またくるからね」
と、帰ってしまった。
なんていいおじいさんだろう。
フルーツだけでなくお金もくれるなんて。
白パン何個買えるかな。
ウキウキと金貨をポケットにしまおうとしたら、すてきなお姉さんにすかさず取られた。
「だめよべべちゃん! これは店の売り上げになるの。院長に渡さなきゃ怒られるわよ?」
「えー!? ぼ……べべちゃんが貰ったのに!?」
「他の店はしらないけど、この店はそういう店なの。院長の方針でね」
むう。
先生は、ほんとにお金が好きな人だ。
「でも、あなたの涙はお金になる!一粒金貨一枚!これからもどんどん泣いていきましょ!」
「どんどん泣くってなんだよー」
でも、ぼくの可愛さはやっぱりお金になるみたいだ。
―――――
「リュテ王子は反逆や脱走の兆しもなく、ご息災で?」
心臓がはね上がった!
奥のテーブルだ。
「今のところ、前王派の残党による接触はありません」
びっっくりした!!
廃王子の定期報告とかも先生のしごとなのか。
大丈夫、もう怒られ済み案件だもん♪
「脱走したら犬に咬み殺させます。ご安心を」
先生が険しい目つきでチラッとこっち見た。
あっ、これ、また怒られそうな気配。
……あれ……?
ぼくは目をうたがった。
「あなたの陛下への忠誠を疑うものなど、王都にはいませんよ。さあ、一献どうぞ」
先生より格上っぽい聖職者が、先生のグラスにワインを注いだ。
でも、そのワインからは、黒い霧が湯気みたいに立ちのぼってる。いつも先生の体のまわりで揺らめく、あの黒いのと同じだ……?
「あらぁ! 私ごのみのイケメェン!(棒) ご一緒してよろしいかしらぁ?(棒)」
ぼくは気づくと、グラスとボトルを蹴りたおしつつ先生の膝にスライディングで飛び込んでいた。
お姉さんたちの必殺技は、完璧に覚えた。
ごく自然にご相席できたはず!
「……フッ」
先生が無表情のまま震えだし、うしろを向いて顔を覆ってしまった。
蹴りかた、すこし不自然だったか。
……あとで怒られるかな。
「無礼な! きさま、このお方が司教さまと知って……うん? ……かわいい」
役人がめっちゃ怒鳴ってきたけど、偉そうなおじいさんが、かばってくれた。
「うむ、たしかに美しい。よいよい、見慣れない顔だ。新人で不慣れなのだろう。いいとも、相席を許すぞ。近くに寄れ」
エギルが歯を剥いて、たしなめるような顔で布巾を持ってくる。
ワインがこぼれた床には、ずっと黒い霧みたいなのが漂ってる。
これ、飲んだら絶対体に悪そう。
触るのも危ないかもしれない。
ぼくはエギルから布巾を貰って床を拭き、
「すみませぇん!(棒) まだ新人で慣れてなくてぇ。ちょっと洗ってきますねぇ!(棒)」
こっそりと院に持ち帰ることにした。
触れたらまずそうなので、もちろん手に薄く魔力障壁を纏わせてから掴み、アイテムボックスにインだ。
これがなんなのかは、あとで調べてみよう。
――――
この日。ぼくが得た情報で重要だと思ったのは、この三つ。
王は権威保持のため、護国九剣に執着している。
王が気に入る剣を献上した者、剣を打った者に報奨がある。
魔剣の材料にするために魔神や精霊狩りをはじめた。
つまり、ぼくも魔剣を作れば王に接近し、母を取り戻すきっかけができるのかもしれないということだった。
☆先生のツボに1HIT!
次回、リュテのスキル鑑定の結果は……?




