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幽閉王子と魔剣の国~魔剣に溺愛されたぼくは誰も殺さず伝説の王になる~  作者: キマモリニコ
第1章 箱入り王子は仲間をつくる~魔剣と出会うまで~
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第21話 氷剣の騎士



「氷剣の男! ぼくの……」


 ぼくが斬りかかると、男は躱《かわ》しざまに手刀で鉄剣を叩き落とした。


 一撃で鳩尾に膝が入る。息がつまる。


「衆人環視《しゅうじんかんし》で何を言うつもりだった? おまえが問題起こせば家族が殺される。どんな状況でも冷静を失うな」


 耳元で囁かれ、自分の迂闊《うかつ》さに冷や汗が出た。


 動きと技に覚えがある。

 まちがいない。先生の声だ!


「……取り乱してすみません。この世で一番会いたかった人がいたので」


 ぼくは冷静を装ったけど、頭は混乱したままだった。


 先生が、仮面の。

 氷剣の……騎士?


 あの日、ぼくの両親を氷の像に変えた男。


 なぜぼくを訓練してる?

 なぜ両親を?


 その剣があれば、母上は元に戻せるの?


 ぼくは先生の手の蒼く透き通る氷剣から、目が離せない。


 聞きたいことは、たくさんある。

 でも、絶望が先に立った。


 だって、ぼくとこの人のあいだには天地ほどの実力差がある。


 一生かけても埋められない技能差!


 …………なにか……。

 ……なにか考えなきゃ。


 交渉を少しでも有利にするために。

 ぼくが提供できるものを。


 先生はいつも言っている。

 状況をよく見ろ。


 技術は模倣して盗め。 

 周りに溶け込め。


 先生は仮面を外して長椅子《ソファ》に掛けた。


 ぼくは、すかさずお姉さんたちの真似で先生の横に座り、仇敵の首に抱きついて耳元に囁いた。


 慎重に言葉を選んで、先生にだけ伝わる会話をする。


「ぼくの一番欲しいものを手に入れるために、あなたと取引がしたい。あなたの力(・)でぼくの苦(・)悩(・)を溶かすことはできますか?」


 フルーツの皿に手を伸ばし、フォークでスイカを刺し、先生の口許に運ぶ。


「……そうきたか。ああ、できる。

 俺に勝ったらく(・)れ(・)て(・)や(・)っ(・)て(・)も(・)い(・)い(・)」


 氷剣に注がれるぼくの視線を追い、先生は剣をくれると言った!


 先生に嫌そうに手の甲で払われたので、自分で食べて、次は緑色のブドウを刺す。 


「楽しみです。でも、なぜ今まで何年も隠してたんですか? ぼくが死ぬほど会いたがってるのは、知ってたと思うんだけど。

 ……うまっ!! いま食べたのなんだ!?」


 先生がまたフォークを押し退けたので、ぼくがまたそれを食べる。止まらない!!


 先生がぼくを二度見した。

 そして、続けた。



「初めに教えたら今のように半狂乱で斬りかかって、俺の話は聞かなかっただろう?

 効率的な手順で前王派の穀潰《ごくつぶ》しを鍛え、再利用するのが俺の仕事だ」


「ぼくの両親も、効率的な仕事のひとつだと?」


「ああ。セイル、オービス、ミスリル、そしておまえ。修道騎士として使えそうな若いのを、四人買えた。割のいい仕事だった」


 怒りが沸点に達すると、制御不能になるのがぼくの欠点《チャームポイント》。


 ぼくの体は勝手に動く!

 フォークを先生の右眼めがけて突き立てる!


 失敗!

 叩き落とされた!


「皆さまお待ちかね! 院長襲撃タイムのはじまりです!」


 なんだ!?

 オービスのよくわからないアナウンスで喝采が起こった。


 院長襲撃タイムって何!?


「王様の忠犬! 影の始末屋! 多くの前王派を抹殺し、この国で最も敵をつくった氷の男ギルフェレス!


 院長と若き復讐者ベベちゃん、どちらが勝つかベットしてください!」


「ベベちゃん可愛いぞ!! 金貨五だ!!」 


「私は院長に金貨二十!」


「隙に乗じて参加ご希望の方は、金貨十枚にて短剣を用意してございます。

 かく言う私も復讐者、同情するならチップを下さい! ミスリル嬢がお席へ参ります!」


「短剣をよこせ!」

「ミスリル様!」


 なんか盛り上がりはじめた。

 

 先生を狙い、お客が刺客になって乱入!


 オービスの短剣の乱投が先生の髪をかすめた!


 歓声と悲鳴と怒号。

 食器の割れる音。


 ぼくはスカートの中に仕込んだ短剣を取る!


 先生の脇を!

 退路を予測し二本の投剣で首を!

 口に含んだ針で再び眼を狙う!


 が、すべて躱された!


 技を繰り出すたびに調度品が壊れる。

 悲鳴があがる。


「くそっ、今日はいけると思ったのに!!」


 悔しがるふりをしつつ!


 お客さん達の肩を踏んで飛び込む!

 振り向きざまにダメ押しで旋風脚をお見舞い!


 ダメだったぁぁあ―――!!


「ああっ!」

「客を踏み台に……!!」


 ミスリルとエギルが、頭を抱えた。


「わはは、何人踏むんだよ!阿鼻叫喚じゃねえか!!」 

 

 セイルが笑いすぎて膝をついた。 



「やはり、合格させるのは早かったようだな」


 先生はもう興味無さそうに、座り直してしまっている。


 ぼくは泣きたい気持ちだった。

 ううん。ちょっと泣いてる。


 いま仮面と外出許可を取り上げられたら、計画がほんとに頓挫してしまう。


 ぼくは自分が勝てそうなのを、必死に考えた。


「……はっ、そうだ。先生とぼくじゃ実力差がありすぎて不公平ですっ! 今度はぼくの得意な将棋《チェス》で、平和的な勝負をっ……!」


「つまみ出せ」


 オービスに首根っこを捕まれて、路地裏に出された。


「鬼――!!」

「べべちゃんを泣かすなー!!」

「べべちゃん頑張ったぞ!!」

「応援してるぞー!!」


 遠くで拍手が聞こえてお客さんがなにか叫んでるけど、ぼくの耳には入らなかった。


 鋼鎧蛇《ロリーカ》は難なく倒せるようになったのに、やっぱり先生にはまったく歯が立たなかった。

 

 ヒト型の化け物かもしれない。

 

「おまえな。大人しくて聞き分けがいいかと思ったら、セイルより酷い問題児じゃねえか。

俺の仕事増やすんじゃねえ!」


 オービスにほっぺの皮を摘まんで伸ばされた。

 

 痛い!! 

 握力つっよ!! 


「ゴメンナハイ!」


「ん」 


「……オービスも復讐者なの? その……」


「ああ、院長に親父と兄をな。前王派の重鎮はみんなあの人に殺されてる」


 ……なんて、ことだろう。


 オービスは悲壮な過去を淡々と話す。


 ぼくに気を遣わせない意味もあるだろうけど、割りきりの早い、さっぱりした性格だ。


 それでもぼくは、いたたまれなかった。


「……ごめんなさい。ぼくの父上を支持してくれたせいで……」


「おまえのせいじゃないさ。みんなわかってるし、院長を憎んでる奴もいない。それぞれの事情があっただけだ。ほら、これ。院長から」


 オービスが蝋紙に包んだなにかを手渡してくれる。


 開けてみると、さっき約束したフルーツが入っていた。

 

 …………今日は色々ありすぎた。


 人が多いところは慣れないし、まだ先生のことで混乱していた。


 でも、先生から確約を取り付けた。


 一歩だけ、前進したんだ。

 冷酷だけど、約束をたがえる人ではないから。


 今日だって、フルーツ盛りはちゃんと包んで持たせてくれた。


 ……………。


 ……漠然と、氷剣の男を倒そうと思ってた。

 でも、先生が相手なら普通の方法では絶対に無理だ。


 あの人を倒して母を取り戻す。


 ……。


 ……のは、……むりかもしれない。


 ……。


 頑張れ、泣くな、ぼく。


 いま絶望してしまうと胸の中が真っ暗で、何もできなくなってしまう。


 強くなる努力は続けつつプランB、Cを用意するんだ。


 なにか先生を納得させる、明確なメリットを見せなきゃ。


 ……先生の好きなもの。

 つまり、まずはお金を稼ぐ――――!!


――――


 店内では、皆が壊れた調度品や、食器の片付けをしていた。


「すげえな、院長にあーんしてたぜ!?」


「ああ、院長も二度見してた。あの悪魔みたいな人に抱きつく度胸が普通じゃない」


「赤《べべ》ちゃんですからね……」

「今日踏まれた客、もう来ないかもな」



 ぼくの知らない間に、一部始終を目撃していたみんなの王子の概念がまた上書きされていたみたいだ。

 

 壊した調度品の損害で、院長の怒りの矛先はなぜかラキに向かったこと、


 上客にはショーが好評で、ぼくの罪は不問になったことはエギルに後から聞かされた。


「院長襲撃タイム」はオービスが思いつきでやった復讐だったけど、好評すぎてお店の人気イベントとして定着したんだって。


 ぼくはこの院長に「あーん」した件でのちのち、『聖騎士団のサイコパス妖精姫』っていう不名誉なあだ名がつくんだ。



☆先生の教えがどんどん独自解釈されていく!

 

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