第14話 ベネディクタス
井戸の横の洗い場で野菜と卵を洗い、みんなで収穫物を持って台所に向かう。
今日の夕食メニューは、皮つき新じゃがの揚げ焼きと夏野菜の入ったオムレツ、オニオンスープ。
修道院はいつも野菜メインの質素な食事だけど、野菜が豊富な夏場は少しだけ豪華になる。
「リュテは慣れない外出と畑作業で疲れたでしょ。少し休んでて」
「うん。全力で逃げたから、ちょっと疲れた」
ラキは魔法の制御が得意じゃないから、パンを焼くのは少し下手かも。
だけど、ほかの料理はふつうにおいしいし、手際もいいんだ。
ぼくは自分が取った野菜が料理されるところも見たかったけど、ラキは不慣れなぼくが横をうろうろすると、ちょっと邪魔そう。
お言葉に甘えてテーブル席で休ませて貰った。
「ちょっと味見してみる?」
「うん!」
スープと、フライパンでちょっと崩れたオムレツのはしっこを、味見させてもらう。
じゃがいもがほくほくで、お塩が控えめの野菜と卵が甘くてやさしい味。
「どう?」
今まであまり気にしたことなかったけど、確かにあのマンネンロウが入ると、オムレツが上等な感じになる!
とってもいい香りがする!
カラムにメインやパンをしょっちゅう取られてたから、いつも味わうこと無く飲み込んでたけど、ラキの言う通り全然ちがう!
「うん、すごく美味しい!幸福感て感じ!」
「よかった!」
食事をつくり終えて配膳し、みんなでテーブルにつ いた。
ベネディクタスの席にだけ、食事が置かれてなかったので、追加で盛りつけて渡す。
が。
「今日は、院長が戻らない日だぞ」
なぜかエギルが、すぐに下げてしまった。
「でも、ベネディクタスのがないよ?」
「えっ、……だれ?」
エギルは半妖精だ。
当然、精霊眼の持ち主だと思うけど違ったのかな。
なんか、やばい人をみる目でこっち見たよ。
いや、エギルはいつも人を信じない、捨て犬のような目つきだ。デフォかもしれないね。
彼に見えないのに、ぼくに見えてるのかな?
……幽霊、とか?
地下にいたみたいな。
いや。
エギルは好き嫌いが激しい。
ぼくだって最初は無視されてた。
修道院の戒律では、食事抜きや無視という罰もあるし。
どれかな。
聞きにくいな。
結局ぼくはみんなの眼を盗み、テーブルの影でベネディクタスにパンを渡すことにした。
パン屋のおばさんが、おまけでくれたうちのひとつだ。
とてもとても名残惜しい。
けど、おなかをすかせた人の気持ちは誰よりぼくが知ってる。
「主は優しい方です。ご自分が満足に食べられない境遇なのに、私のような者にも分け与えてくださる。まさに王の器……」
ぼくはベネディクタスの口をふさいで、辺りを見回した。
この人はこういうとこが危ない!
よし、カラムも先生もいない!
「ベネディクタス、謀反を疑われるような言葉は口にしちゃダメ。先生に殺されてしまうよ」
ベネディクタスは眩しいものでも見るように、ぼくを見返した。
「わかりました。でも主の糧を奪うことはできません。どうぞ、あなたが召し上がってください」
と、パンは返されてしまった。
ベネディクタスは危なっかしいけど、ぼくを心配して優しいと言ってくれる。
いい人に違いない。
……幽霊じゃないのかも。
触れるし。
うん、まあいいか。
仕方ないよね!
ぼくは素早くパンを懐にしまった。
――――
いつになく美味しい食事だった。
でも、だからこそ、ふと思ったんだ。
このパン、妹にも食べさせてあげたいな。
妹はちゃんと食事をもらえているだろうか?
面倒見がいいラキ、パンを買ってくれるエギル。
困ったときに助けてくれるセイルやオービス。
自分はいい人に囲まれてるけど、妹はいま、どういう状況だろう?
カラムみたいな、嫌なやつに意地悪されてないだろうか?
自分だけこんなに楽しく過ごして、いいんだろうか?
ミュゼに会いたい。
母上に、すごく会いたい。
「あれ、さっきまでご機嫌だったのにどうしたの?涙出てるよ?」
ラキが顔を覗き込んでくる。
この時、ぼくは愚かにも、もう決めていた。
……仮面をつけたら、もし他の人に会っても、ぼくが廃王子だということはバレない、ということ。
夜中にこっそりと、ここを出てしまおうと。
☆次回、リュテの脱走の結末は?




