第17話 Sランクの指導!地獄の特訓開始
病院を退院してから三日後。
俺は白鳥の車に揺られ、都内郊外に存在するダンジョン庁直属の『特別訓練施設』を訪れていた。
外観は巨大なドーム状の建造物だが、地下には最先端の魔導技術で補強された、広大な疑似戦闘フィールドが広がっている。
「今日からここで、本格的な戦闘スキルの再構築を行います」
通路を歩きながら、白鳥が手元のタブレットに視線を落としたまま説明を続ける。
「あなたの中に眠る『核』は、前回の戦闘での過負荷を経て、より高密度な魔力を供給できるようになっています。ですが、それを扱うあなたの身体と技術が追いついていません。軽自動車の車体にF1マシン用のエンジンを積んでいるような状態です」
「……確かに。前回の戦いでも、出力の加減が全然できなかった」
自分の手のひらを見つめる。
あの『漆黒の獄狼』の爪を受けた瞬間、魔力を短剣に乗せようとしたものの、制御が乱れて衝撃をまともに喰らってしまった。
「そこで今回は、国家最高峰の探索者に特別コーチをお願いしました。……来ましたね」
重厚な防音扉が開き、俺たちは広大なトレーニングエリアへと足を踏み入れた。
そこに立っていたのは――全身からバチバチと紫色の放電を纏わせた、小柄ながら全身にしなやかな筋肉を宿した女性だった。
背中に二本の小太刀を背負った美女。
Aランク探索者パーティのリーダーであり、日本屈指の速度を誇る『迅雷』の雷術士、神代ライカだ。
「あなたが神楽木レンちゃんね。……ふーん、可憐で可愛い子だけど、目つきは悪くないじゃん」
ライカは鋭い金の瞳で俺をじっと見つめると、不敵にニッと八重歯を覗かせた。
「白鳥から話は聞いてるよ。規格外の魔力量を持ちながら、体の使い方が素人以下だってね。前回の配信も見たけど、完全に地力のパワーだけで力押ししようとして自滅してたでしょ」
「ぐっ……返す言葉もありません」
「素直でよろしい! 言っておくけど、私の稽古は超スパルタだよ? あなたの『核』の魔力を、ただ爆発させるんじゃなくて『神経と筋肉の超加速』に変換する術を叩き込んであげる」
ライカが指を鳴らすと、彼女の身体がブレたかと思うと、一瞬で俺の目と鼻の先――息がかかるほどの至近距離に現れた。
「なっ……!?」
「これがスピードだよ。いくら絶大なパワーがあっても、当たらなきゃ意味ないし、敵の攻撃を避けられなきゃ死ぬの。まずは基礎の『雷電導法(身体強化)』からいくよ。短剣を構えなさい!」
「は、はいっ!」
俺は支給された最新型の耐魔短剣を構えた。
「体内の魔力を胸に溜め込まず、一気に全身の末端神経まで張り巡らせて! 爆発じゃなく、体中を稲妻が駆け巡るイメージ!」
ライカの指導に従い、胸の『核』から魔力を引き出す。
だが、意識した瞬間に朱赤の魔力が激しく暴走し、短剣の刀身から荒々しく爆炎となって噴き出してしまった。
「駄目! 力みすぎ! それじゃ自分の体を燃やしてるだけ!」
ライカが一瞬で背後に回り込み、俺の背中に手を当てた。
その瞬間、俺の魔力回路にピリッとした心地よい電流が走り、荒れていた朱赤の光がスーッと収まって、全身の神経が研ぎ澄まされていく感触があった。
「魔力は『爆発』させるんじゃない。『駆け巡らせる』の。……もう一度!」
「くっ……はい!」
それから、地獄のような超加速反復練習が始まった。
魔力を全身の神経に行き渡らせる感覚の体得、体幹トレーニング、そしてライカが容赦なく放つ雷撃の弾幕を最小限の動きで回避する実戦ドリル。
「遅い! 思考より先に身体を動かしなさい!」
「うぁあっ!?」
鋭い雷光が頬をかすめ、朱赤の髪がふわりと舞う。
全身汗だくになり、呼吸は激しく乱れ、足がガクガクと震える。だが、俺は一度も倒れなかった。
(負けたくない……! もう二度と、誰かの後ろで守られるだけの存在にはならない……!)
悔しさと渇望が、俺の身体を動かす。
何度も何度も雷撃に弾かれ、床に倒れ込みながらも、俺は鋭い眼光でライカを見据えて立ち上がり続けた。
数時間後――。
訓練の合間の短い休憩時間。俺はトレーニングエリアのベンチに座り、スポーツドリンクを飲みながら肩で息をしていた。
「……信じられない喰らいつきね」
タオルを差し出しながら、ライカがどこか感心したように息を吐く。
「普通の新人なら、最初の30分で過呼吸になって倒れてるよ。その華奢な体で、どこにそんな根性隠してんの?」
「……死にかけた身ですから。これくらいで音を上げてたら、深層なんて行けません」
タオルで汗を拭いながら俺が笑うと、ライカはふっと頼もしい笑みを浮かべた。
「良い度胸! ……実はね、今日の訓練相手は私だけじゃないよ」
「え……?」
ドアが開き、もう一人の人物がトレーニングエリアに入ってきた。
ツインテールを揺らし、運動着姿の氷室リンだった。手にはスポーツドリンクのボトルと、二人分のお弁当箱が握られている。
「レンちゃん! 差し入れ持ってきたよ――って、すごい汗! 大丈夫!?」
「リンちゃん!? なんでここに……」
「なんでって、私も一緒に訓練を受けるからに決まってるじゃん!」
リンは八重歯を覗かせてニッと笑うと、俺の隣に腰掛け、力強く自分の胸を叩いた。
「あの時、私が動けなかったからレンちゃんに怪我させちゃったの。だから私ももっと強くなる! もう絶対にレンちゃんの足を引っ張らないし、二人で最強のペアになるんだから!」
まっすぐな瞳でそう宣言するリン。
その言葉と温かい笑顔に、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「リンちゃん……うん! 一緒に強くなろう!」
「よしっ、良い顔になったね二人とも!」
ライカが二人の姿を見つめながら、小太刀をシャキンと鞘に納めた。
「復帰戦の目標は、一ヶ月後に行われる『中層合同アタック』。そこで二人がどこまで通用するか、私の名誉にかけて超スピードで鍛え上げてあげるから覚悟しなさい!」
「「はいっ!!」」
挫折を知った二人の少女(一人の中身は男子高校生)。
朱赤の熱気と白銀の氷、そして雷のスピードが交わり合い、さらなる高みへ向かうための特訓が、ここから加速していくのだった。




