第12話 コラボ決定と、同性(?)からの距離感
浅層を圧倒的なパフォーマンスで攻略した翌日。
ネット上の熱狂が収まらない中、俺は白鳥が手配してくれたタワーマンションの特設オペレーション室に呼び出されていた。
室内には複数の大型モニターが並び、専門のスタッフたちが俺のチャンネルのデータ分析や、ダンジョン庁との連絡調整を慌ただしく行っている。つい数日前まで、一人で錆びついた短剣を握りしめ、泥にまみれて薬草を摘んでいた身としては、あまりにも現実感のない光景だった。
「来てくれましたね、神楽木さん。いえ、レンさん」
オペレーションデスクの前に立つ白鳥アオイが、洗練されたスーツ姿で振り返る。その手には一枚の紙資料とタブレットが握られていた。
「白鳥さん、あの……コラボの件、本当にやるんですか? 俺、配信の経験も浅いですし、上手く会話できるか不安なんですけど……」
俺は耐魔素材のパーカーの裾を指先でいじりながら、正直な不安を口にした。
中身は男子高校生とはいえ、今の容姿はどこからどう見ても華奢な少女だ。声も高く可憐で、鏡を見るたびに自分でも戸惑ってしまう。そんな状態で、他の配信者――それも大人気の美少女ダンチューバーと対面して上手く振る舞える自信がなかった。
「心配いりませんよ。むしろ、今のあなたの『ちょっとドジで素直なキャラクター』は、視聴者にとって非常に魅力的です。飾らず、そのままのあなたでいれば問題ありません」
「ど、ドジですか…」
白鳥はそう言って微笑むと、タブレットの画面を操作してモニターに一人の少女のプロフィールを映し出した。
「改めて紹介します。今回のコラボ相手は、Cランク探索者の『氷室リン』さん。弱冠17歳ながら、すでに中層攻略の第一線で活躍している実力者です。彼女の配信スタイルは、的確な解説と明るいキャラクターで、同性・男性問わず幅広い層から絶大な人気を集めています」
画面に映し出された氷室リンは、艶やかな銀髪をツインテールに結び、機能的かつ可愛らしい軽甲冑に身を包んでいた。勝気そうな八重歯が覗く笑顔と、澄んだ青い瞳が印象的な美少女だ。
「氷室さんの方からも、あなたとのコラボを強く希望するオファーが届いています。『あの可憐な剣技を間近で見たい』『ぜひ一緒に中層を探索したい』と、かなり熱烈なメッセージでしたよ」
「ね、熱烈……ですか?」
「ええ。彼女は元々、実績のある若手探索者として誇り高く活動していますが、あなたの復帰配信を見て完全に一目惚れ……いえ、ファンになったようです。彼女と組むことで、中層の基礎知識を視聴者に分かりやすく提示しつつ、あなたの『やりすぎ』を抑えるストッパー役も期待できます」
白鳥の説明は相変わらず論理的で隙がない。
確かに、俺一人で中層に入れば、また加減を間違えて地形を破壊したり、要領を得ない動きで視聴者をヒヤヒヤさせてしまうかもしれない。中層の過酷な環境やモンスターの特性を熟知しているパートナーがいるのは、純粋にありがたかった。
「……分かりました。俺で役に立つなら、ぜひよろしくお願いします」
「良い返事です。すでに日程の調整は済ませてあります。明日の午後、中層へのゲートが存在する『東京第1ダンジョン・中層管理プラザ』で合流し、そのままコラボ配信を開始します」
「えっ!? 明日ですか!?」
急展開すぎるスケジュールに、俺は思わず大声を上げてしまった。
「当然です。ネットの話題性が最高潮に達している『今』仕掛けるのが最も効果的ですから。……あ、それと」
白鳥はフッと意味深な笑みを浮かべ、俺の全身を上から下へと品定めするように視線を走らせた。
「コラボにあたって、彼女から一つ強い要望がありました。『当日の衣装は、ぜひ二人で並んだ時に映えるような可愛いデザインにしてほしい』とのことです。ですので、これから新しい耐魔ウェアの試着を行っていただきます」
「え……? 衣装……? 今のこの服じゃダメなんですか?」
「今の黒と濃紺の服も素敵ですが、配信上の『見映え』も大切な要素です。さあ、隣のフィッティングルームへ移動しましょう。専門のスタイリストが用意した最高級の耐魔スーツが待っていますよ」
「ちょっと白鳥さん!? 俺、男ですよ!? 着せ替え人形じゃないんですから――っ!」
抗議の声を上げる間もなく、俺は白鳥と女性スタッフたちによってフィッティングルームへと押し込まれてしまった。
数時間後――。
何度も服を着替えさせられ、あーでもないこーでもないと全身をチェックされた俺は、魂が抜け出たような顔で鏡の前に立っていた。
鏡に映っているのは、白とペールブルーを基調とした、軽やかで洗練されたデザインの耐魔探索ウェアを着た自分だ。肩や膝などの要所は高機能な軽合金で保護されつつも、全体的にシルエットが美しく強調されており、朱赤の髪と相まって、まるでゲームのヒロインのような仕上がりになっていた。
「素晴らしい……。完璧です、レンさん」
白鳥が心底満足そうに頷く。
「明日のコラボ配信、世界中があなたたちの姿に熱狂することでしょう。楽しみですね」
「……白鳥さん、俺、男に戻るために戦ってるはずなんですけど……」
「ええ、知っていますよ。ですが、過程を楽しむことも大切でしょう?」
クスリと笑う白鳥の言葉に、俺は深いため息を吐くことしかできなかった。
自分が男であるという記憶と、世界から「可憐な美少女」として扱われる現実。その歪なギャップを抱えたまま、俺は明日、初めての「コラボ配信」という未知の戦場へと足を踏み入れることになるのだった。
展開を考えるのが難しいです




