第9話 家族
いつも読んでいただきありがとうございます。
「外に戻りたい」
少女は泣いていた。
「でも、戻っちゃダメなんだって」
「みんな悲しむから」
「代表様も悲しむから」
無は少女を見る。
「帰りたいのか?」
「……うん」
「お母さんに会いたい…」
「そうか」
少女が下を向く。
「でも、私が戻ると」
「代表様が悪い人みたいになるから」
「だから…ダメなんだって」
無はしばらく黙っていた。
そして。
「お前はどうしたい」
少女は目を丸くした。
「私?」
「うん」
少女は困った顔をする。
まるで。
そんなことを聞かれたことがないように。
「分からない…」
「そうか」
「うん……」
「でも…」
少女は涙を拭く。
「帰りたい」
「お母さんに会いたい」
「そうか」
無は小さく頷いた。
翌日。
施設はいつも通り。
笑顔。
感謝。
祈り。
優しい言葉。
誰も怒らない。
誰も争わない。
昼食。
No.2が近くに座った。
「お隣、よろしいですか?」
「うん」
男は嬉しそうに笑った。
「慣れましたか?」
「たぶん」
「そうですか」
しばらく沈黙。
不思議と嫌な空気ではない。
「無さん」
「何だ」
「貴方は優しい人ですね」
「そうか」
「ええ」
No.2は微笑む。
「人の話を聞く」
「否定しない」
「怒らない」
「とても優しい」
無は少し考える。
「分からない」
「ふふ」
No.2は笑った。
「その分からない、という言葉」
「好きですよ」
「そうか」
「はい」
そして。
No.2は遠くを見る。
「信じることは難しい」
「裏切られた人」
「捨てられた人」
「傷付いた人」
「そんな人達がここへ来る」
男は微笑む。
「だから私は」
「家族を作りたかった」
「家族?」
「はい」
「誰も1人にならない家族です」
嘘ではない。
男は本気だった。
「素敵だな」
無が言う。
No.2は驚いた。
そして。
少しだけ嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます」
その時。
1人の女性が駆け込んできた。
「代表様!」
泣いていた。
「娘を返してください!」
空気が止まる。
周囲の信者達の顔から笑顔が消えた。
「また来た…」
「酷い人」
「代表様を悪者にする気?」
女性は泣きながら叫ぶ。
「お願いします!」
「一度でいい!」
「娘と話をさせて!」
「お願いします!」
周囲から非難の声。
「帰ってください!」
「代表様を困らせないで!」
「最低!」
だが。
No.2だけは。
悲しそうな顔をしていた。
「皆さん」
その一言で静かになる。
「責めないでください」
「彼女も苦しんでいるのです」
女性は泣き崩れる。
「じゃあ返してください!」
「娘はまだ十歳なんです!」
No.2は目を閉じた。
「……」
そして。
寂しそうに微笑んだ。
「私は」
「誰も縛っていません」
「帰りたい人は自由に帰れます」
「ですが」
「彼女がここを家族だと望むなら」
「私はその気持ちを否定できません」
女性は絶望した顔になる。
無は黙って見ていた。
その時。
『2』
黒い数字が。
初めて大きく脈打った。
そして。
「お母さん……」
小さな声。
昨日の少女だった。
顔は嬉しそうなのに。
目だけが。
泣いていた。
これからもよろしくお願い致します。




