第7話 信じる者
いつも読んでいただきありがとうございます。
「私は皆を救いたいだけなのです」
男の差し出した手。
無はしばらく見つめた。
そして、
「そうか…」
その手を握った。
男は嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます」
「貴方のお名前を聞いてもよろしいですか?」
「無です。」
「無さんですか」
男は目を細める。
「良い名前ですね」
「代表様!」
1人の女性が駆け寄ってきた。
泣いている。
「息子が!」
「息子が目を覚ましたんです!」
男は驚き、そして自分のことのように喜んでいる。
「本当ですか?」
「良かった!」
「本当に良かった!」
女性は涙を流して喜んでいた。
「ありがとうございます。」
「代表様のおかげです!」
男は首を横に振る。
「違いますよ」
「頑張ったのはお母様ですよ」
「私は何もしていませんよ」
嘘を付いてるように見えない。
そう見えた。
無は男を見ていた。
首に『2』に見えるあざ。
黒い数字はそこにある。
それでも。
心から男は喜んでいるように見える。
「……」
無は何も言わない。
その日の夜。
無は施設に泊まることになった。
泊まる部屋。
食べ物。
ベッド。
どれも無料だった。
「優しい人達だ」
無は呟く。
たぶん、良い人達なのだろう。
翌朝。
掃除をする人達や料理を作る人達。
皆、笑顔だった。
「ありがとう。」
「助かります。」
「今日も良い1日にしましょう。」
そんな言葉が飛び交っている。
そして。
誰も疑わない、代表様を。
お昼。
男が1人、頭を下げていた。
「申し訳ありません…」
「私は会社も辞めて…」
「家族にも見放されて…」
「もうどうしたらいいか……」
No.2は優しく肩に手を置いた。
「大丈夫ですよ」
「貴方は1人ではありませんよ」
「信じてください」
「必ず救われます」
男は泣き崩れている。
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
周囲の者達も涙を流していた。
「代表様は凄いですね」
「本当に優しい!」
「神様みたい!」
無は黙って見ていた。
その時。
1人の少女と目が合った。
10歳くらいに見える。
施設内の子供。
少女は小さな声で聞かれる。
「お兄ちゃん?」
「どうした?」
少女は周囲を確認する。
そして。
少しだけ怯えた顔で聞く。
「代表様のこと」
「信じてる?」
無は答える。
「分からない」
少女は目を丸くした。
「分からない?」
「うん」
少女はしばらく黙る。
そして。
初めて笑った。
「変なの」
その瞬間。
厨房で。
ガシャン!
激しい音が響く。
「申し訳ありません!」
「許してください!」
「申し訳ありません!」
男が床に頭を擦り付けていた。
食器を落としただけだった。
それなのに。
周囲の信者達が。
責めるような目で見ている。
「代表様の前で……」
「なんてことを……」
「反省しなさい!」
男は泣いていた。
「申し訳ありません!」
「申し訳ありません!」
そして。
その中心で。
No.2だけが。
悲しそうな顔をしていた。
「やめてください」
「彼を責めないでください」
「誰にでも失敗はあります」
男は優しく微笑んでいた。
その笑顔を見て。
全員が泣いていた。
無は静かに見つめる。
『2』
黒い数字が。
脈打った。
無の胸の奥に。
小さな違和感が生まれる。
「……」
「何だ……この感覚……」
その感情の名前を。
無はまだ知らなかった。
今後もよろしくお願い致します。




