第52話 No.13
いつも読んでいただきありがとうございます。
いつもの喫茶店。
無はクリームソーダを飲みながら、静かに考えていた。
「命」 「信頼」 「愛」 「時間」 「尊厳」 「肉体」 「欲望」 「記憶」 「存在」 「秩序」 「感情」 「因果」
理解できたものもある。
まだ理解できないものもある。
ストローでゆっくりとクリームを崩しながら、小さく呟く。
無 「やっぱり……要らないものもある。」
カウンターの向こうからマスターが優しく微笑む。
マスター 「要らないものがあるんですか?」
無 「必要ないと思う。」
マスターは少し考え、静かに口を開いた。
マスター 「必要ないものって、何でしょうね。」
「本当に必要ないなら、生まれてくるのでしょうか。」
無は答えられない。
マスターはコーヒーカップを磨きながら続ける。
マスター 「簡単なものもあります。」
「命は無くなれば死ぬ。」
「だから奪ってはいけない。」
「愛や信頼は、1人では知ることが出来ません。」
「欲望だってそうです。」
「食欲、睡眠欲、性欲。」
「欲がなければ、人は生きることも、命を繋ぐことも出来ない。」
少しだけ微笑み、無を見る。
マスター 「私はね。」
「生まれたものに、必要ないものなんて一つも無いと思っています。」
「どう思いますか?」
「──無。」
その瞬間。
無の表情が止まる。
ゆっくりとマスターを見る。
無 「……。」
マスターは苦笑した。
マスター 「気付かなかったのも無理はありません。」
そう言って首元を少しずらす。
そこには。
黒い数字。
13。
無は何も言わず、その数字を見つめていた。
マスターは穏やかに笑う。
マスター 「そんなに構えなくていい。」
「私は理を持っていない。」
「だから、お前と戦う理由もない。」
無は静かに尋ねた。
無 「……いつから。」
マスター 「最初からだよ。」
「お前がこの店へ来ることも。」
「クリームソーダを好きになることも。」
「全部、決まっていた。」
無は少しだけクリームソーダを見る。
無 「……美味しかった。」
マスターは嬉しそうに笑った。
マスター 「だろう?」
「お前が好きな味だからな。」
「お前が少しでも立ち止まり、考えられる場所になるように。」
「私はずっと、この店で待っていた。」
無は静かに息を吐く。
今までの出来事が頭をよぎる。
No.1。
No.2。
No.3──No.12。
すべて、この店から始まっていた。
マスターは一歩前へ出る。
マスター 「そろそろ始めようか。」
その言葉と同時に、世界が静止した。
時計は止まり。
風は止み。
音も消える。
白い光が喫茶店を包み込み、景色がゆっくりと溶けていく。
気が付くと。
そこは果ての見えない真っ白な空間だった。
何もない。
ただ1つだけ。
古びた白い扉が静かに佇んでいる。
その前に立つマスター。
マスター 「ここから先は、お前1人で歩く道だ。」
「答えを教えてくれる者は、もういない。」
「私を納得させろ。」
「それが出来た時、この扉は開く。」
「私は消えない。」
「だが、お前は次のステージへ進める。」
静寂が流れる。
無はゆっくりと目を閉じた。
これまで出会った人々。
悩み。
理。
言葉。
その全てを胸の中で噛み締める。
やがて静かに目を開く。
その瞳には、No.1の頃にはなかった意志が宿っていた。
無 「……行く。」
マスターは満足そうに微笑んだ。
マスター 「さあ来い、無。」
「お前が歩いてきた道が、本物だったことを証明してみせろ。」
白い空間に、2人だけの足音が静かに響き始めた。
今後もよろしくお願いいたします。




