第51話 因果応報
いつも読んでいただきありがとうございます。
無が言葉を放つと、いつものように世界が静止した。
風は止み、人の気配は消え、駐車場はゆっくりと姿を変えていく。
2人が立っていたのは、一面に机と書類が並ぶオフィスだった。
しかし、どこか異様だった。
天井も壁もなく、空一面には無数の数式が浮かんでいる。
だが、その答えはどれも間違っていた。
1+2=6
8-3=12
5×5=3
原因と結果が、すべて食い違っていた。
無は空を見上げる。
無 「答えが……違う。」
岩佐は平然と答えた。
岩佐 「違わない。」
「これが私の答えだ。」
無 「間違えてる。」
岩佐 「何が?」
「私はずっとこうしてきた。」
「問題なんて1度も起きていない。」
「私は出世した。」
「評価もされている。」
「だから、この答えは合っている。」
無は静かに岩佐を見る。
無 「自分の答え。」
岩佐 「私が出来ない仕事を部下に任せる。」
「何が悪い?」
「しかも部下だ。」
「仕事を任せるのも上司の仕事だ。」
無 「お前の仕事。」
岩佐 「私は他にも仕事がある。」
「私は誰よりも仕事を抱えている。」
無 「時間は。」
岩佐は一瞬だけ言葉を止めた。
岩佐 「十分ではない。」
「だが、短いわけでもない。」
無 「出来るのか。」
岩佐 「……わ、私なら出来る。」
無 「なぜ。」
「やらない。」
岩佐は少し苛立ったように声を強める。
岩佐 「だから!」
「私には他にも仕事があるんだ!」
無 「部下。」
「仕事ある。」
岩佐 「それは……。」
「私の方が仕事が多い。」
「少しくらい増えても、部下なら出来る。」
無は首を横に振る。
無 「同じ。」
岩佐は大きく首を振った。
岩佐 「違う!」
「結果を出せればいい!」
「結果を出した私が評価される!」
「部下に仕事を振って、それをまとめて提出した。」
「それが私の成果だ!」
「過程なんて関係ない!」
無は静かに言う。
無 「違う。」
「結果。」
「原因。」
岩佐は叫んだ。
岩佐 「同じだ!」
「提出したのは私だ!」
「私の仕事だ!」
無は1歩近付く。
無 「お前。」
「やったのか。」
岩佐の言葉が止まる。
無はさらに続けた。
無 「部下が作った。」
「お前が評価された。」
「原因。」
「結果。」
「逆。」
岩佐は何も答えられない。
無 「努力と結果。」
「お前にはない。」
「成立しない。」
その瞬間。
首筋の12が大きくひび割れた。
空一面に浮かんでいた数式が、1つ、また1つと正しい答えへ変わっていく。
1+2=3
8-3=5
5×5=25
世界そのものが、本来あるべき因果へ戻っていく。
岩佐は光に包まれながら、それでも首を振った。
岩佐 「私は悪くない……。」
「部下なんだ。」
「仕事を振るのも上司の仕事だ。」
無は何も言わず、岩佐を見つめていた。
岩佐は苦しそうに呟く。
岩佐 「私は間違ってない。」
「ずっとこうしてきた。」
「間違っているなら……。」
「誰かが止めたはずだ。」
「私は……。」
「間違ってない……。」
その言葉を最後に、岩佐の姿は光と共に消えていった。
静寂だけが残る。
無はゆっくりと空を見上げる。
無 「因果。」
「原因が。」
「結果になる。」
「逆は。」
「成立しない。」
世界が元に戻る。
車が走り、人々が歩き始める。
翌日――。
会社では朝からざわついていた。
奥村 「岩佐課長……無断欠勤だって。」
川口 「そうなんですか。」
少し間を置き、苦笑いを浮かべる。
川口 「……いいんじゃないですか。」
「いない方が、仕事ははかどりますよ。」
奥村も小さく笑った。
奥村 「そうだな。」
「次の課長が、まともな人だといいな。」
川口 「さすがに、連続では来ないでしょう。」
2人は顔を見合わせ、小さく笑った。
その笑顔を見届けるように、朝日が静かに会社を照らしていた。
今後もよろしくお願いいたします。




