第50話 毒上司
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数日後――。
岩佐は会議室に社員を集めた。
しかし、集まったのは奥村ただ1人。
他の社員は全員、外回りの予定を入れていた。
岩佐は眉をひそめる。
岩佐 「会議は大切なことを話す場ですよ。」
「みんな欠席なんて、おかしいじゃないですか。」
奥村は何も言わなかった。
──違う。
"おかしい"のは、あなたなんだ。
そう思いながらも言葉を飲み込む。
本来なら自分も外回りを入れたかった。
だが今月中締切の仕事を抱えているため、今回は呼ばれないだろうと考えていた。
それが甘かった。
岩佐は1人で話し続ける。
岩佐 「ちゃんと仕事をしてもらわないと困ります。」
奥村は心の中でため息をつく。
(誰もいないなら会議を中止にすればいいだろ……。)
(予定だからって、1人で始めるなよ……。)
沈黙に耐えきれず、奥村が口を開く。
奥村 「……で、どうするんですか?」
「会議、続けるんですか?」
岩佐は手元の資料を見ながら答えた。
岩佐 「来月までに終わらせなければならない案件があるんですが……。」
奥村 「はっきり言います。」
「俺には無理ですよ。」
岩佐は少し困った顔をする。
岩佐 「そうですよね……。」
「私も他の仕事がありますので……。」
「今回は上司に相談して、納期を延ばしてもらいます。」
奥村 「それがいいと思います。」
岩佐は頷く。
岩佐 「奥村さんにお願いしている案件はどうですか?」
奥村 「今月中には終わります。」
岩佐 「分かりました。」
一枚の書類を差し出した。
岩佐 「熱中症対策シートと感染症対策シートを作成しました。」
「皆さんに確認をもらって、私に提出してください。」
奥村は思わず聞き返す。
奥村 「……俺がやるんですか?」
岩佐 「他に人がいませんので。」
奥村 「岩佐さんがやってください。」
岩佐は当然のように答える。
岩佐 「私は仕事がありますので。」
奥村は言葉を失った。
(仕事は……。)
(みんなあるんだよ。)
岩佐は悪びれる様子もない。
岩佐 「まぁ、今回は私がやります。」
「ただ、次からは奥村さんに任せますので、そのつもりで。」
その一言で会議は終わった。
喫煙室。
奥村は乱暴にタバコへ火をつける。
煙を吐きながら、小さく呟いた。
奥村 「あいつ……。」
「マジで居なくなってくれないかな。」
その日の午後。
岩佐は体調不良を理由に早退した。
帰宅前にスーパーへ立ち寄り、夕食の買い物を済ませる。
一人で歩きながら、何かをぶつぶつ呟いている。
その声に反応し、近くを歩いていた無が振り返った。
首筋に浮かぶ黒い数字。
12。
無は静かに岩佐の後を追う。
会計を済ませ、駐車場へ出たところで声を掛けた。
無 「どうした。」
岩佐は少し驚いた表情を見せる。
岩佐 「……私ですか?」
「体調が悪くて、帰るところです。」
「あなたは?」
無 「仕事は。」
岩佐 「私以外にも出来る人はいますからね。」
無は一歩近付く。
無 「任せた。」
岩佐は少し笑って答えた。
岩佐 「ええ、任せました。」
「部下を信頼するのも、課長の仕事ですから。」
その瞬間――。
首筋の12が、ゆっくりと黒く、太く染まっていく。
無は静かに呟く。
無 「No.12。」
岩佐は眉をひそめた。
岩佐 「……何ですか?」
無 「No.12。」
その言葉と同時に、世界が静まり返る。
風が止まり。
人の気配が消え。
駐車場の景色がゆっくりと歪み始めた。
岩佐は初めて表情を曇らせる。
岩佐 「……なんだ、これは。」
無は岩佐を真っ直ぐ見つめる。
無 「因果。」
世界は、静かに理の空間へと姿を変えていった。
今後もよろしくお願いいたします。




