第5話 No.2
いつも読んでいただきありがとうございます。
夕暮れ。
商店街。
車の音。
人々の話し声。
子供たちの笑い声。
世界は何事もなかったように動いていた。
無は立ち尽くしていた。
「……」
何かあった気がする。
だが思い出せない。
胸の奥が少し温かい。
そんな気がした。
「安心」
無は小さく呟いた。
たぶん。
そういう感情なのだろう。
自信はなかった。
腹が鳴る。
「……腹減った」
そちらの方が大事だった。
コンビニへ入る。
おにぎりを2つ。
お茶を1本。
レジへ向かう。
「お箸はお付けしますか?」
店員が聞く。
「……?」
「お箸です」
「はい」
店員は少し困った顔をした。
「お弁当ではありませんので……」
「そうか」
無は素直に頷いた。
店員は笑いを堪えていた。
「袋はどうされますか?」
「……」
無は少し考える。
「入るなら」
「はい」
店員はまた困った顔をした。
外へ出る。
ベンチに座る。
袋を開ける。
「……」
箸が入っていた。
「優しい人だ」
胸が少し温かくなる。
これも感情なのだろう。
たぶん。
その時。
テレビの音が聞こえた。
電気屋の店頭。
ニュース番組。
女性アナウンサーが神妙な顔をしている。
『本日未明、集団失踪事件の被害者3名が発見されました』
『3人とも意識はあるものの、会話が成立せず、家族の認識もできない状態とのことです』
『現場に争った形跡はなく、警察は……』
無の視線が止まる。
画面が切り替わる。
白い服を着た男。
優しそうな笑顔。
穏やかな声。
『救済とは信じることです』
『迷える者には愛を』
『傷付いた者には居場所を』
『誰も1人ではありません』
男は微笑む。
『神は平等です』
『皆様を救います』
周囲の人々が頷く。
泣いている女性。
感謝する老人。
笑顔の若者。
無はテレビを見つめていた。
「……」
何かがおかしい。
男の首筋。
『2』
黒い数字。
無の目が細くなる。
「No.2」
次の瞬間。
激しい頭痛。
『信じろ』
知らない声。
『疑うな』
『信じれば救われる』
誰かの声。
たくさんの声。
泣き声。
笑い声。
祈り。
歓声。
「……っ」
無は頭を押さえる。
記憶。
ではない。
何か別のもの。
そして。
テレビの男は微笑んでいた。
「皆様」
「信じてください」
「必ず救われます」
無は静かに立ち上がる。
胸の奥がざわつく。
この感情の名前を。
無は知らない。
ただ1つ。
確かなことがあった。
「……行くか」
そして。
遠く離れた巨大な施設で。
男はテレビ越しにこちらを見ていた。
「おや」
初めて。
男の笑顔が深くなる。
「ようやく」
「来てくださいましたか」
男の首筋で。
『2』
が脈打っていた。
今後もよろしくお願い致します。




