第4話 命
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『1』
亀裂の入った数字が熱を帯びる。
男は首を押さえた。
苦しい。
熱い。
痛い。
何より。
分からない。
「どうして……」
老人。
女。
学生。
子供。
静かに立ち尽くす影。
誰も責めない。
誰も怒らない。
ただ見ている。
男は震えていた。
「私は……」
「落ち着きたかっただけです」
答えは返ってこない。
「悪い人間ではなかった」
「真面目に働いて」
「税金も払って」
「挨拶もして」
「人並みに生きてきた」
男は頭を抱えた。
「なのに……」
「なぜこんなに苦しい」
無は何も言わない。
男は膝をつく。
「最初は……」
「一人だった」
ぽつりと呟いた。
「会社で怒鳴られて」
「妻にも呆れられて」
「何もかも嫌になった」
「腹が立った」
「だから……」
男の身体が震える。
「殺した」
「通りすがりの人を」
沈黙。
「すると」
「少しだけ」
「少しだけ楽になった」
男の声が震える。
「だから続けた」
「もっと楽になれると思った」
「もっと」
「もっと」
「もっと……」
男は顔を覆う。
「違う」
「違う」
「違う……」
影たちが近づく。
老人。
女。
学生。
子供。
男は涙を流していた。
「私は……」
「楽になりたかったんじゃない」
無は静かに見つめる。
「私は……」
「怖かった」
「苦しかった」
「逃げたかった」
「誰かに」
「助けてほしかった……」
無
「それは成立しない」
男
「……」
無
「お前の理は」
「他人の命は、お前を落ち着かせるためにある」
「違う」
「お前は落ち着いていなかった」
「だから」
「成立しない」
『1』
ぱきり。
数字の亀裂が広がる。
男は影たちを見る。
初めてだった。
彼らの顔を。
目を逸らさず見たのは。
「……申し訳」
声が震える。
「申し訳……ありません……」
深く。
深く。
頭を下げる。
いつものように。
誰よりも丁寧に。
「申し訳……ありませんでした……」
その瞬間。
『1』
ぱりん。
数字が砕け散る。
男の身体が光に包まれる。
男は驚いたように自分の手を見つめた。
「これは……」
そして。
少しだけ。
安心したように笑った。
「そうですか」
「私は……」
「疲れていたのですね」
影たちが男を囲む。
誰も恨まない。
誰も怒らない。
ただ。
男を連れて行くように。
静かに。
夕陽の中へ消えていった。
無だけが残る。
静寂。
やがて世界に音が戻る。
車の音。
人々の声。
夕暮れの商店街。
何事もなかったように。
無は立ち尽くしていた。
そして。
小さく呟く。
「……安心」
それが何という感情なのか。
無には分からなかった。
ただ。
胸の奥が少しだけ温かかった。
その時だった。
頭に激しい痛みが走る。
知らない景色。
誰かの声。
『――13……』
そこで記憶は途切れた。
無はゆっくり顔を上げる。
夕陽が赤く街を染めていた。
そして。
次の数字は。
『2』
無の瞳に。
黒い数字が映った。
今後もよろしくお願い致します。




