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ナンバーズ  作者: アル治


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48/49

第48話  感情とは……

いつも読んでいただきありがとうございます。

友達とマスターの動きが止まる。

喫茶店全体が白い光に包まれ、無と男だけがその場に残された。

天井のない空間。

空には心電図の波形と、嘘発見器のような波形が静かに浮かんでいる。

無 「シンプル。」

男 「そうなのか?」

「変わった景色だな。」

「これが俺の世界か。」

無 「そうだ。」

男 「確かに俺らしい。」

「何も揺るがない。」

「何にも影響されない。」

無 「そうか。」

「慈悲。」

男 「あるさ。」

「ただ、俺に影響を与えることはない。」

無 「なぜ。」

「最初から。」

男は少しだけ考える。

男 「そんな訳……ないかな。」

「物心ついた頃からかもしれない。」

「色々あったからな。」

無 「何があった。」

男 「失恋。」

「裏切り。」

「孤立。」

「まぁ、誰でも経験するようなことだよ。」

無 「理解。」

「助け。」

「同情。」

男は表情を一切変えない。

声色も変わらない。

男 「普通なら求めるのかもね。」

「でも、求めたところで必ず手に入る訳じゃない。」

「助かる保証もない。」

「だったら最初から関わらなければいい。」

無 「違う。」

男 「何が違う?」

無 「愛。」

「家族。」

「記憶。」

「必要。」

男は少し微笑む。

男 「うーん。」

「俺をそんなに悪者にしたいのかな。」

「影響されたくないだけだよ。」

「大切なものはある。」

無 「それは。」

「感情。」

「成立しない。」

男は首を傾げた。

首筋の『11』は微動だにしない。

男 「どうしたんだ?」

「俺、一言も『感情がない』なんて言ってないと思うんだけど。」

無 「………。」

無は黙る。

初めて理を見誤った。

感情を理解できない無には、今までで一番難しい相手だった。

男 「間違えたのかな?」

「俺は笑ったり、人を見下したりしないから安心していいよ。」

無 「感情。」

「無い訳じゃない。」

「なぜ。」

男 「さっきの説明じゃ分からなかったか。」

「他人のために使う感情がないだけだよ。」

「他人に振り回されたくない。」

「ちなみに君にもね。」

無 「他人。」

「愛。」

「憎しみ。」

「怒り。」

「無いのか。」

男 「無いね。」

「乱されたくない。」

「他人に俺の心へ入ってきて欲しくない。」

無 「愛。」

「2人で作る。」

男 「そうだね。」

「1人じゃ作れない。」

「時間を重ねれば育っていく。」

「でも、感情を出すから苦しむ。」

「無ければ平等だ。」

無 「何故。」

「話す。」

男 「君が分かってないから。」

「教えてあげてる。」

無は静かに男を見つめる。

無 「教えたい。」

「自分を理解してほしい。」

「それは。」

「感情。」

男の表情が初めて僅かに揺れた。

男 「違う。」

「俺は。」

「怒ってなんかいない。」

無 「違う。」

「否定された。」

「嫌だった。」

「だから。」

「怒った。」

首筋の『11』に、小さなヒビが入る。

男は初めて息を呑む。

男 「……。」

無 「声。」

「トーン。」

「変わった。」

男 「違う!」

無 「違わない。」

「怒り。」

「感情。」

男は言葉を失う。

首筋の『11』はさらに大きくヒビ割れていく。

男 「俺は……。」

「自分を守ろうとしただけだ。」

「他人に心を荒らされたくなかっただけだ。」

その瞬間、『11』が砕け散る。

空に浮かぶ心電図も、嘘発見器の波形も、静かに小さくなっていく。

男は初めて悲しそうな表情を浮かべた。

男 「俺は……。」

「間違えたのかな。」

「自分を守っただけなのに……。」

しばらく沈黙が流れる。

そして男は、小さく笑った。

男 「……でも。」

「あの時の俺には。」

「これしか出来なかった。」

光が男を包み始める。

無 「感情。」

「難しい。」

男は静かに頷く。

男 「本当に……難しいな。」

そう言い残し、光と共に姿を消した。

喫茶店へ戻る。

マスターが動き出し、友達も何事もなかったように話を続けている。

無は残っていたクリームソーダをゆっくり飲み干した。

グラスの中の炭酸が、小さな音を立てて弾ける。

「感情。」

「難しい。」

喫茶店を出た無は、夕暮れの空を静かに見上げた。

今後もよろしくお願いいたします。

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