第41話 No.9
いつも読んでいただきありがとうございます。
歩きながら考えていた。
忘却。
忘れなければ前に進めないこともある。
無はNo.8を思い出していた。
忘れなければ生きていけない者もいる。
だが――
無 「忘れなきゃいけない」
「ずっと覚えているのは」
「辛い……」
考えながら歩いていると、大きな交差点に辿り着いた。
信号待ちをしている人々の中、1人の女性が花束を抱えて歩いてくる。
綺麗な顔立ちをしていた。
だが目の周りは赤く腫れ、充血している。
何日も泣き続けたような顔だった。
女性は交差点の片隅に花束を置くと、その場にしゃがみ込んだ。
そして。
「ごめんなさい……」
「謝るから……」
「帰ってきてよ……」
「私が悪かった……」
声を上げて泣き始めた。
通行人は気まずそうに通り過ぎていく。
無だけが、その姿を見ていた。
やがて女性が顔を上げる。
無と目が合った。
女性は少し困ったように笑う。
誰かに話さなければ耐えられなかったのかもしれない。
女性 「いつもケンカしてたの……」
「私が素直になれなくて……」
「こんな事になるなら……」
「もっと話しておけば良かった……」
「昨日まで笑ってたのに……」
無 「泣いている」
「なぜ」
女性は少し驚いた後、涙を拭った。
女性 「彼氏が友達と一緒に事故に遭って……」
「彼氏だけ死んじゃったの……」
「ちゃんと好きって言ってない……」
「これからずっと一緒に居ると思ってたのに……」
女性は再び泣き出した。
無は何も言わない。
何を言えばいいのか分からなかった。
ただ、その場を離れることも出来なかった。
――翌日。
無は再び交差点を訪れた。
女性はまた来ていた。
花束を置き。
手を合わせ。
泣いていた。
翌日も。
その翌日も。
変わらず。
無 「まだ」
「泣いている」
女性 「涙が止まらないの……」
「言っちゃダメだと思うけど……」
女性は震える声で続けた。
女性 「友達の方が死んでいてくれれば……」
「凍矢は助かったかもしれない……」
無は答えられなかった。
女性 「ごめん……」
「酷いこと言ってるのは分かってる……」
「でも……」
「それくらい好きだったの……」
「照れてないで本音で話せば良かった……」
「凍矢に会いたいよ……」
「声が聞きたい……」
「抱き締めて欲しいよ……」
無 「愛」
女性 「……うん」
「愛してた」
「凍矢がいい」
「凍矢じゃなきゃダメなの……」
無 「友達は」
女性 「知らない……」
「会ったこともないし……」
「凍矢が運転してたから……」
「凍矢の親も少し大変だったの……」
無 「そうか」
女性 「死んだのが凍矢だったから、大きくは揉めなかったんだけど……」
女性は拳を握り締める。
女性 「私は……」
「私は!」
「逆が良かった!」
言った瞬間。
女性は顔を覆い、声を殺して泣いた。
無 「愛」
「間違えない」
女性の涙は止まらなかった。
だが。
その言葉だけは否定出来なかった。
今後もよろしくお願いいたします。




