第35話 好きなら……
いつも読んでいただきありがとうございます。
休日の昼下がり。
公園には子どもたちの笑い声が響き、家族や恋人たちが穏やかな時間を過ごしていた。
無はベンチに腰掛け、静かに考えていた。
「愛……。」
No.6は、本当に旦那を愛していた。
それは嘘ではなかった。
ただ、愛し方を知らなかっただけ。
それしか教えられず、それだけを信じて生きてきた。
無は空を見上げ、小さく呟く。
「愛。」
その前を、1組の男女が手を繋いで歩いていく。
笑顔の2人。
付き合いたてなのだろう。
青年は突然、女性を抱き締めた。
女性は照れながら身体を押し返す。
「みんな見てるよ……。」
「恥ずかしいって。」
青年は笑う。
「俺は雫が好きなんだ。」
「雫は俺のこと好きじゃないの?」
雫は少し照れながら笑った。
「好きだよ。」
「陸のこと、大好き。」
その言葉を聞いた陸は再び雫へ近付き、キスをしようとする。
雫は両手で顔を押さえ、そっと距離を取った。
陸は不思議そうな顔をする。
「なんで?」
「好きならいいじゃん。」
「好きなんだから。」
雫は困ったように息をついた。
「付き合って初めてのデートだよ。」
「そんなに急がれたら、ちょっと引いちゃう。」
「好きだから近付きたい気持ちは分かるよ。」
「でも、順番とか……。」
「付き合ってからも、時間が必要なことってあると思うの。」
陸は首を傾げた。
「順番?」
「時間?」
「好きなら、そんなの要らないよ。」
「好きなら、好きでいいじゃん。」
「ホテル行こう。」
雫は悲しそうに陸を見る。
「……別れよう。」
陸は固まった。
「え?」
「なんで?」
雫は静かに答えた。
「陸。」
「やりたいだけなら、他の子を誘って。」
「私は、そういう付き合いじゃない。」
そう言い残し、雫は歩き出す。
陸は慌てて追い掛けた。
「違う!」
「好きだから触れたいんだ!」
「好きだから近くにいたい!」
「好きだから一つになりたい!」
雫は立ち止まり、振り返る。
「好きなら、やらなきゃいけないの?」
陸は戸惑いながら答えた。
「そうじゃないの?」
「好きだから触れたいって思う。」
「温もりを感じたいって思う。」
「逆に雫は、好きでもない人とそういうことするの?」
雫は首を横に振った。
「違うよ。」
「好きだからって、全部良いって訳じゃない。」
「私は陸が好き。」
「でも、それとこれは別。」
そう言い残し、雫は走り去っていった。
陸は立ち尽くす。
無はそのやり取りを静かに見つめていた。
ふと、陸の首筋に黒い『7』が浮かび上がる。
「No.7。」
無はゆっくり歩き出す。
しかし陸は何かを感じたように振り返り、そのまま走り去ってしまう。
無はその背中を見送り、小さく呟いた。
「逃げた。」
少しだけ首を傾げる。
「……違うな。」
今後もよろしくお願いいたします。




