第32話 No.6
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夕暮れ。
スーパーへ続く道を、あの青年が汗だくになって走っていた。
無は何も言わず、その後を歩く。
青年はスーパーへ飛び込むと、真っ直ぐアイス売り場へ向かった。
冷凍ケースを1つひとつ覗き込み、必死に何かを探している。
暑さに耐え切れなくなったのか、長袖を少しだけまくった。
その瞬間だった。
腕には、紫色に変色した痣がいくつも残っていた。
青年は気付いていない。
いや、気にする余裕すらないのだろう。
首元の汗を拭う。
その拍子に、首筋には火傷のような跡も見えた。
青年はアイス売り場を一通り見渡す。
目的の物が見つからなかったのか、小さく舌打ちをすると、慌てて店を飛び出し、近くのコンビニへ走っていった。
無もゆっくりと店の外へ出る。
店先には、以前青年と一緒にいた女性が立っていた。
落ち着きなく辺りを見回し、苛立った様子で誰かを探している。
女性は無に気付き、駆け寄ってきた。
「すみません。」
「主人を見ませんでしたか?」
無は静かに答える。
「見た。」
女性は安堵したように表情を緩める。
「どこですか?」
無は短く尋ねる。
「どうした。」
女性は困ったように笑った。
「帰りが遅いんです。」
「心配で……。」
無は静かに答えた。
「あった。」
「腕。」
「変色。」
女性の表情が、一瞬で消えた。
「……それは問題ありません。」
無は首を傾げる。
「そうなのか。」
女性は迷いなく答える。
「そうです。」
「それは、愛です。」
無はその言葉を繰り返す。
「愛……。」
その言葉には覚えがあった。
娘を想い続けた母親。
胸の奥が温かくなる、あの感覚。
無は静かに首を振る。
「違う。」
女性は声を荒らげる。
「違わない!」
「これが愛なのよ!」
「私の愛!」
女性の首筋に、黒い『6』がゆっくりと浮かび上がる。
無は静かに見つめた。
「それは違う。」
女性はさらに語気を強める。
「違わない!」
「私は愛しているの!」
「だから叱る!」
「だから傷付ける!」
「全部、あの人のためなの!」
首筋の『6』が、脈打つように濃く染まっていく。
女性は無へ詰め寄る。
「ねぇ……。」
「主人はどこ?」
「早く教えて。」
「私の主人なの。」
「心配なの。」
無は静かに答えた。
「知らない。」
女性の表情が歪む。
「どこって聞いてるでしょ!!」
無は静かに告げる。
「No.6。」
「言いなさい!!」
その怒声が響いた瞬間――。
夕陽が止まる。
風が止み。
人の足音が消えた。
世界は静寂に包まれる。
無は静かに女性を見つめた。
今後もよろしくお願いいたします。




