第31話 挙動不審
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夕暮れ。
無は空腹を覚え、近くのスーパーへ入った。
店内は夕飯の買い物客で賑わっている。
その中で、1人だけ目を引く青年がいた。
真夏にもかかわらず、長袖にロングパンツ。
首元まで隠れた服装。
汗をかいている様子もなく、どこか怯えたように店内を歩いていた。
無は特に気にも留めず、青年の後ろへ並ぶ。
その瞬間だった。
青年の肩が小さく震える。
恐る恐る後ろを振り返る。
無と目が合うと、慌てるように視線を逸らし、その場を離れてしまった。
無は静かにその背中を見送る。
「……。」
特に気にはならなかった。
買い物を終え、店の外へ出る。
青年は駐車場に停められた1台の車へ向かった。
助手席へ乗り込む。
運転席には若い女性が座っていた。
2人は何かを話している。
最初は穏やかな会話だった。
しかし。
女性の表情が徐々に険しくなる。
青年は何度も頭を下げていた。
次の瞬間。
パシン。
女性の平手が青年の頬を打ったのが見えた。
青年は何も言わず、何度も頭を下げる。
女性はしばらく話を続ける。
やがて満足したように笑った。
青年も無理に笑顔を作る。
車は何事もなかったかのように走り去っていった。
無は静かに見送る。
「……。」
数日後。
無は公園を歩いていた。
ベンチには、あの2人が並んで座っている。
穏やかに笑い合い、楽しそうに話していた。
だが、その空気は突然変わる。
女性が青年を睨みつけた。
「ねぇ。」
「今、あの女見てたよね?」
青年は慌てて首を振る。
「い、いや……見てないよ。」
女性は冷たく笑う。
「じゃあ。」
「私が間違えたの?」
青年は言葉を失う。
「……いえ。」
「間違えてません。」
女性は鼻で笑う。
「やっぱり見てたんじゃん。」
青年はうつむいた。
「……はい。」
女性は満足そうに頷く。
「いいわ。」
「私、アイス食べたい。」
「買ってきて。」
青年はすぐに立ち上がる。
「うん。」
「待ってて。」
女性は笑顔で手を振る。
「お願いね。」
青年はコンビニへ走っていく。
その間、女性はベンチから1歩も動かなかった。
しばらくして青年が戻ってくる。
息を切らしながらアイスを差し出した。
「買ってきたよ。」
女性はアイスを見ると。
「……何それ。」
青年は戸惑う。
「アイス……だけど。」
女性は冷たい目で青年を見る。
「私がいつも何を食べるか、覚えてないの?」
青年の顔がどんどん青ざめる。
「……ごめん。」
その言葉を聞いた瞬間。
パシン。
再び乾いた音が響く。
青年は何も言わず、頭を下げた。
女性は立ち上がる。
「帰るよ。」
青年は小さく頷く。
「……うん。」
肩を落とし、女性の後ろを歩いていく。
2人が無の横を通り過ぎた、その時だった。
女性の首筋。
黒く浮かび上がる数字。
『6』。
無は静かに呟く。
「No.6。」
今後もよろしくお願いいたします。




