第29話 領域
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翌日。
無は再びビジネス街を訪れた。
昨日と同じ場所で、あの男を待つ。
しばらくすると、大きな怒鳴り声が聞こえてきた。
「アイツは俺の言うことだけ聞いてればいいんだ!」
「なんでそれが出来ない!」
男は今日も部下を引き連れ、大声で歩いている。
無は静かに男を見つめた。
男は無に気付き、不機嫌そうに眉をひそめる。
「また、お前か。」
「いい加減にしろ。」
無は静かに尋ねた。
「嬉しい?」
男は鼻で笑う。
「嬉しいわけないだろ。」
「部下は仕事をしない。」
「その上、お前みたいな変な奴に話しかけられる。」
無は男の首を見つめた。
「首。」
男は勘違いして笑う。
「ああ、クビか。」
「クビにしたい気分だよ。」
「あれだけ目を掛けてやってるのに、まるで成長しない。」
「俺は会社のために身を粉にして働いてるんだ。」
無は静かに言った。
「違う。」
男の笑顔が消える。
「何が違う。」
「俺が働いてないとでも言うのか!」
「そうだ。」
男は怒鳴った。
「なんなんだ、お前!」
「失礼にも程がある!」
「俺は何十年も会社のために働いてきたんだ!」
その瞬間。
男の首筋に浮かぶ『5』が、黒く脈打ち始める。
無は静かに呟いた。
「No.5。」
「なんだって?」
「No……?」
『5』はさらに強く脈打つ。
無は男を見つめた。
「支配。」
男は笑った。
「上の者が下を支配して何が悪い。」
「俺は導いてやってるんだ。」
「違う。」
「違わない!」
男は叫ぶ。
「俺がいなければ、アイツらはただの肉の塊だ!」
「俺が価値を与えている!」
その言葉が響いた瞬間。
夕陽が止まる。
風が止まる。
人の流れが消えた。
気付けば2人は、静まり返ったオフィスに立っていた。
無は静かに呟く。
「No.5。」
男は鼻で笑う。
「何度も言うな。」
「1度言えば分かる。」
「椅子。」
その言葉と共に、高級そうな椅子が現れる。
男は高級そうな椅子に腰かける。
「お茶。」
机に湯気の立つ湯飲みが置かれる。
「タバコ。」
灰皿とタバコが現れた。
男は満足そうに笑った。
「見たか。」
「ここは俺のオフィスだ。」
「俺が言えば、その通りになる。」
「みんな働け。」
「会社のために。」
無は小さく繰り返す。
「会社のため。」
男は誇らしげに頷く。
「そうだ。」
「会社の利益のため。」
「部下に仕事を与え、育てる。」
「それが俺の仕事だ。」
「俺の言うことは絶対だ。」
無は静かに首を横へ振る。
「間違っている。」
男は笑う。
「何を言ってる。」
「この部署は成果も出している。」
「会社からも評価されている。」
「何1つ間違っていない。」
男は勝ち誇ったように笑った。
無は静かに問い掛ける。
「お前は……上なのか。」
男の表情が、初めて変わった。
今後もよろしくお願いいたします。




