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ナンバーズ  作者: アル治


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28/42

第28話  独壇場

いつも読んでいただきありがとうございます。

翌朝。

男はいつもより早く会社へ着いた。

昨日の仕事も終わらないまま、新しい1日が始まる。

始業のチャイムが鳴る。

上司がデスクへ腰を下ろすなり、大きな声を上げた。

「おい!」

「お前、この資料まとめとけ。」

男は資料を受け取り、困惑した表情を浮かべる。

「……私がですか?」

上司は呆れたように鼻で笑った。

「他に誰がいる?」

男は資料を見返す。

「でも、この案件は部長の担当では……。」

その言葉を遮るように、上司は机を叩いた。

「だから?」

「俺がやれって言ってるんだ。」

「明後日までに仕上げろ。」

オフィスの空気が一瞬で凍り付く。

周囲の社員は何も言わない。

顔も上げない。

まるで聞こえていないかのように、自分の仕事を続けていた。

誰も助けない。

いや――助けられない。

上司は不機嫌そうに舌打ちした。

「まったく。」

「なんであんな奴が俺の部署なんだ。」

男は何も言えなかった。

夕方になっても、男は資料と向き合っていた。

本来の仕事ではない。

まず内容を理解するところから始めなければならず、思うように進まない。

そんな男を見て、上司は笑った。

「おい。」

「残業するなよ。」

「うちはホワイト企業だからな。」

豪快に笑う。

「ワハハハ!」

「みんな、定時で帰るように。」

男は慌てて立ち上がる。

「すみません!」

「まだ終わりません。」

「少しだけ残業させてください。」

上司は冷たい目で男を見る。

「は?」

「うちは残業しない部署なんだよ。」

「部署内残業ゼロで、ずっとやってきた。」

男は必死に訴えた。

「でも、この資料が終わらなくて……。」

上司は肩をすくめる。

「それは、お前が仕事できないだけだろ。」

少し笑って続けた。

「大体これは、お前を育てるためにやってるんだから。」

そう言い残し、上司は会社を後にした。

男は1人、デスクの前で立ち尽くす。

すると、1人の同僚が静かに近付いてきた。

「……ここは、1度タイムカードを切るんだよ。」

男は顔を上げる。

「え?」

同僚は苦笑いを浮かべた。

「それから戻って仕事するんだ。」

「みんな、多分そろそろ戻ってくる。」

「これからが本番だよ。」

男は言葉を失った。

しばらくすると、退社したはずの社員たちが、1人、また1人と戻って来た。

誰も文句を言わない。

誰も疑問を口にしない。

それが、この部署の日常だった。

あの上司が配属されて以来――。

翌朝。

上司は男の席へ歩み寄る。

「どうだ?」

「資料は出来たか?」

男は疲れた表情で答える。

「……あと半分です。」

上司はため息をついた。

「まだ終わってないのか?」

「これは会社のためなんだぞ。」

「こんなことも出来ないのか?」

「会社に損害を与えるなよ。」

その口調は、まるで正論を語っているようだった。

会社のため。

部下のため。

成長のため。

そう言いながら、人の心を少しずつ削っていく。

誰が見てもパワハラだった。

誰が見てもモラハラだった。

それでも、この部署では誰一人として声を上げない。

いや――。

声を上げるという発想そのものが、もう壊されていた。

今後もよろしくお願いいたします。

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