第24話 理の入口
いつも読んでいただきありがとうございます。
夕暮れ。
駅前は仕事帰りや学校帰りの人々で賑わっていた。
改札を抜ける人。
家路を急ぐ人。
笑いながら歩く学生達。
その中で、1人だけ動かない女性がいた。
ホームを見つめたまま、静かに立っている。
無はその女性の前を通り過ぎようとした。
「こんばんは。」
女性が優しく声を掛ける。
無は足を止めた。
「こんばんは。」
女性は穏やかに微笑んだ。
「子供の帰りを待っているんです。」
無は女性を見る。
40代半ばくらいに見える。
成人の子供がいても不思議ではない年齢だった。
「そうか。」
女性は嬉しそうに続ける。
「高校生になったんですよ。」
無は短く尋ねる。
「娘。」
女性は少し驚いたように目を丸くした。
「そうなんです。」
「でも、どうして分かったんですか?」
無は答えない。
昨日も同じ会話をした。
しかし女性は、そのことを覚えていない。
いや。
あの日から、時間が進んでいない。
無は静かに口を開く。
「帰らない。」
女性の笑顔が止まる。
「……何を言っているの?」
その首筋に、黒い『4』がうっすらと浮かび上がる。
「事故があった。」
女性は慌てて無を見る。
「どこで?」
「娘は無事なの?」
「帰らない。」
女性の表情が揺れる。
「どうして知ってるんですか?」
「娘は帰ってきます。」
「帰ってくるんです!」
声が大きくなる。
首筋の『4』も強く脈打つ。
無は静かに言った。
「10年前。」
女性は首を横に振る。
「そんな前の話をされても……。」
「娘には関係ありません。」
無は尋ねる。
「何日。」
「12日。」
「何月。」
「5月。」
「何年。」
「16年。」
迷いのない答えだった。
無は静かに首を振る。
「違う。」
女性は少し笑う。
「合ってるわよ。」
「確かめろ。」
「何を言ってるの?」
女性はスマートフォンを取り出した。
画面を見る。
26年6月18日。
女性の呼吸が止まる。
「……なに、これ。」
「10年……後?」
首筋の『4』が激しく脈打つ。
「壊れてるのよ。」
無は静かに言う。
「違う。」
「今日は16年の5月12日!」
「違う。」
「なんなのよ!」
女性の叫びが駅に響く。
「あなたは……何を言ってるの……。」
無は女性の首筋を見る。
黒い数字が脈打つ。
「No.4。」
その瞬間。
『4』が眩く光を放った。
夕焼けが止まる。
駅の喧騒が消える。
世界が静かに歪み始めた。
今後もよろしくお願いいたします。




