第23話 No.4
いつも読んでいただきありがとうございます。
夕陽が沈み始める。
駅前は帰宅する人々で賑わっていた。
仕事を終えた会社員。
買い物帰りの主婦。
制服姿の学生。
誰もが家路を急いでいる。
その中で、1人だけ動かない女性がいた。
ホームを見つめたまま、静かに立っている。
無はその女性の前を通り過ぎようとした。
その時だった。
「こんばんは。」
女性が優しく声を掛ける。
無は立ち止まり、小さく頭を下げた。
「こんばんは。」
女性は穏やかに笑いかけた。
「もうすぐ子供が帰ってくるの。」
無は女性を見る。
40代半ばほどだろうか。
成人してる子供がいても、不思議ではない年齢だった。
「そうか。」
少しだけ間を置き、無が聞く。
「好きなのか。」
女性は迷うことなく微笑んだ。
「大好きよ。」
「初めて授かった子なの。」
「もう高校生になったのよ。」
その笑顔は、とても幸せそうだった。
その時、1人の駅員が女性へ近付く。
何も言わず、深々と頭を下げた。
女性も静かに頭を下げる。
駅員はそのまま持ち場へ戻っていく。
無はその背中を見送り、女性に尋ねた。
「知り合いなのか。」
女性は少し首を傾げた。
「知らないわ。」
そう言って、またホームへ視線を戻す。
時間だけが流れていく。
列車が到着し、人が降りる。
また列車が発車する。
それでも女性は動かなかった。
何時間も。
ただ、1人を待ち続けていた。
無が口を開く。
「子供は。」
女性は微笑む。
「帰ってくるわ。」
「いつ。」
「分からない。」
少しだけ寂しそうに笑う。
「でも、帰ってくるの。」
その瞬間。
女性の首筋に、黒い数字が浮かぶ。
『4』
無は静かに呟いた。
「No.4。」
女性は不思議そうに笑う。
「なにそれ?」
「最近流行ってるの?」
「分からない。」
無はそれだけ答えた。
やがて終電の時間になる。
駅は静けさを取り戻していく。
それでも女性は待っていた。
無が聞く。
「子供は。」
女性は優しく笑った。
「今日は先に帰ったのね。」
「私も帰るわ。」
そう言って歩き出す。
無はその背中を見送った。
女性の姿が見えなくなると、1人の駅員が近付いてきた。
「あの人を知っているのか?」
無は首を横に振る。
駅員は静かに話し始めた。
「あの人は十年前、この駅で娘さんを亡くした。」
「電車の事故だった。」
「それから毎日、この時間になるとここへ来る。」
「娘さんが帰ってくると信じてな。」
無は黙って聞いていた。
駅員は夕焼けに染まるホームを見つめる。
「もう10年だ。」
「でも、あの人の時間だけは、あの日から止まったままなんだ。」
無は何も言わなかった。
ただ、胸の奥が小さく締め付けられる。
寂しい。
悲しい。
愛。
そして――時間。
無は静かに目を閉じた。
翌日も。
その翌日も。
女性は駅に立ち続けた。
娘の帰りを、信じながら。
今後もよろしくお願いいたします。




