217話 四者会談 ― 新しい国の形
場所は海に近い寺院。
里見領。
港町の外れにある静かな寺だった。
潮の香りが風に混じる。
その座敷に
四人が集まっていた。
織田信長
徳川家康
上杉謙信
そして
里見桜
戦国でも異様な顔合わせだった。
誰もすぐには話さない。
沈黙。
外では港の鐘が鳴っている。
最初に笑ったのは信長だった。
「妙な集まりだ」
信長は酒を飲む。
「天下人」
「東国の柱」
「そして」
桜を見る。
「時代を動かした姫」
桜は少し苦笑する。
桜の心の声。
(またこの人は大げさに…)
家康は静かに様子を見ている。
謙信は桜を見ていた。
(この姫か)
噂の人物。
戦をせず国を強くする者。
信長が言う。
「単刀直入に言う」
信長の声は真っ直ぐだった。
「戦を終わらせる」
部屋の空気が少し変わる。
信長は続ける。
「西はまとめる」
「城は減らす」
「港を増やす」
「交易を増やす」
信長の頭の中には
里見の港の光景がある。
南蛮船。
市場。
人の流れ。
信長の心の声。
(あれが国の力だ)
信長は言う。
「だが」
「一人ではできん」
家康が静かに聞く。
謙信も動かない。
信長は続ける。
「東は」
「無理に取らん」
家康の眉がわずかに動く。
信長は謙信を見る。
「上杉」
「東の秩序を任せる」
謙信は黙っている。
信長は続ける。
「徳川」
「東海道を押さえろ」
家康は頷いた。
まだ言葉は少ない。
信長は桜を見る。
「そして」
「おぬし」
桜は少し姿勢を正す。
信長は言う。
「商を広げろ」
桜の目が少し細くなる。
桜の心の声。
(やっぱりそこ来たか)
信長は続ける。
「南蛮」
「港」
「交易」
「それはおぬしが一番分かっている」
謙信が初めて口を開いた。
「姫」
桜が見る。
謙信の目は静かだった。
「なぜ」
「戦を嫌う」
部屋が静かになる。
桜は少し考えた。
そして答える。
「嫌いだから」
信長が笑う。
「正直だ」
桜は続ける。
「でも」
「それだけじゃない」
桜は窓の外を見る。
港。
船。
人。
桜は言う。
「戦は」
「国を壊すから」
家康の目が動く。
桜は続ける。
「人が死ぬ」
「田が荒れる」
「町が消える」
桜の声は静かだった。
「だから」
「国は弱くなる」
謙信は黙って聞いている。
桜は言う。
「でも」
「商は逆」
「人が増える」
「町が育つ」
「国が強くなる」
信長が頷く。
桜は続ける。
「だから」
「戦より商」
沈黙。
その理屈は単純だった。
だが。
誰よりも重い。
謙信の心の声。
(理にかなう)
家康の心の声。
(この姫)
(恐ろしい)
信長は笑う。
「だから言った」
信長は酒を置く。
「面白い姫だ」
信長は三人を見る。
「戦を終わらせる」
「だが」
「その後の国が必要だ」
信長の目は強かった。
「それを作る」
沈黙。
謙信が言う。
「義の世」
信長が見る。
謙信は続けた。
「悪くない」
家康が言う。
「急ぎすぎなければ」
信長が笑う。
「遅すぎるより良い」
三人の武将。
そして桜。
四人の思想が
その場で交差していた。
桜の心の声。
(歴史の中心)
(ここ)
桜は少し不思議な気持ちだった。
目の前にいるのは
日本史の怪物たち。
だが。
今は同じ未来を見ている。
桜は思う。
(戦国)
(終わるかもしれない)
外ではまた鐘が鳴った。
港には新しい南蛮船が入ってきていた。
新しい時代の船。
その部屋で。
四人は
戦国の終わりと新しい国の始まり
を話していた。




