215話 謙信―信長の天下構想を知る
越後。
春の終わり。
城の庭にはまだ冷たい風が吹いていた。
そこに座しているのは
上杉謙信。
その前に広げられているのは一通の書状。
差出人は
織田信長。
謙信は静かにそれを読み終えた。
しばらく沈黙。
家臣が言う。
「殿」
「いかがでございましょう」
謙信は目を閉じる。
そして言った。
「面白い」
家臣たちは顔を見合わせる。
謙信は続けた。
「天下を取った後」
「戦を減らす」
「城を減らす」
「商を増やす」
謙信の声は静かだった。
「これは」
「ただの覇者の言葉ではない」
謙信の心の声。
(国の形の話だ)
謙信はゆっくり立ち上がる。
庭の雪解け水が流れていた。
謙信は空を見る。
(戦の無い国)
謙信は長い人生を思い返す。
戦。
戦。
戦。
それが武士の世界だった。
だが。
謙信の心の奥には
昔から一つの願いがあった。
(義の世)
力だけではない。
秩序のある世。
謙信は呟く。
「信長」
「おぬし」
「そこまで見ておるか」
家臣が言う。
「殿」
「織田は敵にございます」
謙信は首を振る。
「敵ではない」
家臣たちは驚く。
謙信は言った。
「役目が違う」
謙信の目が鋭くなる。
「信長は」
「戦を終わらせる者」
家臣たちは黙る。
謙信は続ける。
「そして」
「その国を支える者が必要だ」
家臣が言う。
「それは」
謙信は答える。
「我らだ」
謙信の心の声。
(義は)
(戦の為ではない)
(国の為だ)
その頃。
里見。
港町。
大きな南蛮船が入港していた。
港は活気に満ちている。
商人。
船員。
職人。
そしてその様子を見ている二人。
里見桜
と
里見まな
まなが言う。
「また南蛮船が来ましたね」
桜は頷く。
港では
荷が降ろされている。
ガラス。
薬。
布。
香辛料。
桜は静かに見ていた。
桜の心の声。
(順調)
交易は増えている。
港は成長している。
そして同時に。
(西も動いてる)
信長。
(あの人)
(本当に変わった)
まなが言う。
「信長様」
「面白い方でしたね」
桜は少し笑う。
「そうね」
桜の頭の中には
信長の目が浮かんでいた。
あの鋭い目。
桜の心の声。
(あの人)
(本気で天下を考えてる)
ただの戦ではない。
国。
制度。
未来。
桜は思う。
(戦国の武将で)
(そこまで考えてるの)
(あの人くらい)
まなが言う。
「でも」
「謙信様はどう思うでしょう」
桜は港を見る。
桜の心の声。
(謙信)
上杉謙信
桜は少し考えた。
そして言う。
「多分」
まなが見る。
桜は微笑んだ。
「一番理解する」
まなが驚く。
「え?」
桜は続ける。
「謙信は」
「義の人だから」
桜の心の声。
(戦が好きな人じゃない)
(必要だから戦ってる)
桜は港を見渡す。
笑う子供。
荷を運ぶ商人。
南蛮人と話す通訳。
桜は思う。
(戦の無い町)
(これが答え)
まなが言う。
「戦国が終わるんでしょうか」
桜は少しだけ黙った。
そして言った。
「終わると思う」
まなが驚く。
桜は続ける。
「でも」
「すぐじゃない」
桜の心の声。
(信長)
(家康)
(謙信)
この三人がどう動くか。
それで時代は変わる。
桜は空を見る。
海の向こうには
南蛮の世界がある。
桜は静かに思った。
(日本は)
(変わる)
その時代の入口に
今
立っている。




