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『戦国姫の脳内戦略会議』  作者: れんれん


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231/243

211話 信長と桜 ― 東と西、二つの治め方

夜の陣。

風が静かに幕を揺らしている。

外では兵の足音が遠くに響き、焚き火の火が揺れていた。

陣幕の中には三人だけ。

織田信長

そしてその正面に座る

桜 十四歳。

少し離れたところに

豊臣秀吉

が控えていた。

信長は酒杯を傾けながら、桜を見ている。

(この娘…)

(十四とは思えぬ)

(目が天下人のそれだ)

桜もまた信長を見ていた。

(この人が)

(歴史の中心)

(そして今は…)

(まだ途中の人)

信長が口を開いた。

「桜」

「聞こう」

桜は姿勢を正す。

信長は言った。

「東は連合」

「西は統一」

「おぬしはそう考えておるな」

桜は静かに頷いた。

「はい」

信長は杯を置いた。

「なぜだ」

その問いは鋭かった。

秀吉も興味深そうに桜を見る。

桜は少しだけ考えた。

そして答える。

「地形と歴史です」

信長の目が細くなる。

「ほう」

桜は続けた。

「西は」

「中央に近い」

「京があります」

信長は黙って聞いている。

桜は言葉を続けた。

「京を押さえれば」

「権威が手に入る」

「だから」

「西は一つにまとまる」

信長はうっすら笑う。

(その通りだ)

桜は続けた。

「ですが東は違います」

信長の指が机を軽く叩く。

桜は言う。

「山が多い」

「領地も広い」

「距離も遠い」

「一つの力では」

「治めきれません」

秀吉が小さく頷いた。

桜は静かに言う。

「だから東は」

「連合が良い」

信長は少し前に身を乗り出した。

「中心は」

桜は迷わず答えた。

上杉謙信

信長は笑う。

「軍神か」

桜は頷く。

「義を重んじる方です」

「東の領主は」

「力より義を見ます」

信長はふっと笑った。

「面倒だな」

桜も少しだけ笑う。

「はい」

「とても」

秀吉が吹き出した。

信長は桜を見た。

「では」

「西はどうだ」

桜は少しだけ視線を落とす。

(ここは)

(正直に言う)

桜は顔を上げた。

「西は」

「信長様しか出来ません」

秀吉の眉が上がる。

信長は面白そうに笑う。

「理由は」

桜は言う。

「怖いからです」

一瞬の沈黙。

次の瞬間

秀吉が腹を抱えて笑った。

「はははは!」

信長も声を出して笑った。

「なるほど!」

信長は言う。

「確かにな」

桜は続ける。

「西は」

「力の国です」

「勝った者が治める」

信長は頷く。

桜は静かに言う。

「ですが」

「それを出来る人は少ない」

信長の目が光る。

桜は言った。

「だから」

「西は信長様」

「東は上杉様」

信長は桜をじっと見る。

(この娘)

(天下を盤の上で見ておる)

信長はゆっくり言った。

「では」

「おぬしの役目は何だ」

桜は少しだけ笑った。

「つなぐことです」

信長は眉を上げる。

桜は言う。

「西が戦えば」

「東が飢えます」

「東が乱れれば」

「西も荒れます」

信長は黙る。

桜は続ける。

「だから」

「食を流す」

「商を流す」

「物を流す」

秀吉が小さく呟く。

「交易か」

桜は頷く。

「はい」

「戦を止めることは」

「難しい」

信長は静かに聞いている。

桜は言う。

「でも」

「戦を減らすことは出来る」

信長の胸の奥で

何かが静かに動いた。

(面白い)

(この娘)

(天下を別の形で見ている)

信長はゆっくり言う。

「桜」

桜は顔を上げる。

信長は言った。

「もし」

「天下がまとまったら」

「どうする」

桜は少し考えた。

そして言った。

「畑を増やします」

秀吉が吹き出した。

信長も笑う。

「天下人の答えではないな」

桜は静かに言う。

「でも」

「民は喜びます」

信長は黙る。

しばらくして

ふっと笑った。

「なるほど」

信長は立ち上がる。

「秀吉」

「聞いたか」

秀吉は頷く。

「ええ」

信長は言った。

「この娘」

「天下より先を見ている」

桜はその言葉を聞きながら思う。

(この人は)

(天下を取る人)

(でも)

(天下の後は考えていない)

桜の脳内戦略会議が静かに動く。

(天下統一の後)

(戦をなくす仕組み)

(それを作らないと)

信長が言った。

「桜」

桜は顔を上げる。

信長は笑う。

「おぬし」

「天下を取る気はあるか」

秀吉が驚く。

桜は少しだけ笑った。

「ありません」

信長は眉を上げる。

桜は言った。

「私は」

「天下を取る人を」

「困らせない役目です」

信長は一瞬黙り

そして笑った。

「ははは!」

「ますます面白い」

戦国の夜。

天下人と

十四歳の少女。

二人の会話は

静かに

時代の形を変えようとしていた。

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