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『戦国姫の脳内戦略会議』  作者: れんれん


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230/243

210話 豊臣秀吉、桜を試す

織田の陣所は、夕刻の赤い光に包まれていた。

野営とは思えぬほど整然と並ぶ幕舎。兵たちは忙しく動き回り、各所から命令の声が飛ぶ。

その中心の大きな陣幕の前で、ひとりの男が腕を組んで立っていた。

男は小柄。

しかし目だけは、獲物を狙う獣のように鋭い。

男の名は

豊臣秀吉

まだ「豊臣」の姓を賜る前。

だが既に織田家中で頭角を現している男だった。

秀吉は、陣幕の向こうを見ながら呟く。

「ほう……」

そこには、まだ幼さの残る少女がいた。

背筋を伸ばし、堂々と歩いてくる。

付き従う者もいない。

その少女こそ

桜 十四歳

(この子が……)

秀吉は顎に手を当てる。

(上杉を動かし

北条を説き

西国と交易を結ばせた娘)

(ほんまなら化け物じゃ)

秀吉の口元が、ゆっくり歪む。

「……試してみるかのう」

桜は陣幕の中へ通された。

そこには

織田信長

そしてその側に立つ秀吉がいた。

信長は桜を見ると、静かに笑う。

「来たか」

桜は深く頭を下げた。

「お目にかかり光栄にございます」

声は落ち着いている。

信長はそれを見て面白そうに笑った。

「ふむ」

「おぬしが桜か」

桜は顔を上げる。

その瞳は静かだった。

信長は横にいる秀吉に目を向けた。

「秀吉」

「おぬしが聞きたいことがあるのだろう」

秀吉はにやりと笑った。

「はっ」

秀吉は桜の前に一歩出る。

そして突然言った。

「桜殿」

「もしわしがあんたの立場なら」

「もっと儲けますわ」

桜は一瞬、瞬きをした。

秀吉は続ける。

「米を安く売る?」

「商人に儲けさせる?」

「戦を減らす?」

秀吉は肩をすくめる。

「そんなもん」

「損ですやろ」

陣幕の中が静まり返る。

秀吉は目を細める。

「戦乱の世ですで」

「力ある者が全部持っていく」

「それが世の習いや」

そして少し身を乗り出す。

「なのに桜殿は」

「わざわざ儲けを減らして」

「民を太らせる」

秀吉の目が鋭く光る。

「何でです?」

桜は少しだけ考えた。

そして静かに答える。

「簡単なことです」

秀吉は眉を上げる。

「ほう?」

桜は言った。

「民が飢えれば」

「戦は終わりません」

秀吉は黙る。

桜は続けた。

「兵は民です」

「田畑を耕す者がいなくなれば」

「国は滅びます」

秀吉の口元が、わずかに上がる。

桜はまっすぐ秀吉を見る。

「秀吉殿」

「兵が減れば」

「戦も減ります」

「兵が戻れば」

「田畑が増えます」

「田畑が増えれば」

「国は富みます」

秀吉の目が細くなる。

桜は言った。

「戦で勝つより」

「戦が起きない国を作る方が」

「儲かります」

秀吉は一瞬固まった。

そして次の瞬間

大きく笑った。

「はっはっは!!」

「なるほど!」

秀吉は膝を叩く。

「これは参った!」

秀吉は信長を見る。

「殿」

「この娘」

「化け物ですわ」

信長は静かに笑った。

「であろうな」

信長は桜を見る。

その視線は鋭い。

「桜」

「おぬしの狙いは何だ」

桜は迷わず答えた。

「民が飢えない世」

信長は言う。

「戦はなくならぬぞ」

桜は頷く。

「はい」

「ですが」

桜は静かに言った。

「戦が減る世は作れます」

その言葉に

信長はゆっくり笑った。

「面白い」

信長は立ち上がる。

「ならば見せてみよ」

「桜」

「おぬしの世を」

桜は静かに頭を下げた。

だがその胸の奥では

脳内戦略会議が動き出していた。

(織田信長)

(この人は)

(歴史より)

(少しだけ優しい)

そして桜は思う。

(ならば)

(この人となら)

(本当に戦を減らせるかもしれない)

その瞬間だった。

秀吉がにやりと笑う。

「桜殿」

桜は顔を上げる。

秀吉は言った。

「わし」

「あんた好きですわ」

そして小声で続けた。

「でも」

「油断したら」

「食いますで」

桜は微笑んだ。

「その時は」

「秀吉殿にも儲かる話を持ってきます」

秀吉は一瞬止まり

そして腹を抱えて笑った。

「はははは!!」

「ほんまに化け物や!」

信長はその様子を見て

ただ一言呟いた。

「天下は」

「面白くなるな」

戦国の空に

新しい風が吹き始めていた

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