209話 本能寺は燃えない
桜の交易が歴史を変える夜 ―
天正十年。
京。
本来ならこの夜、
歴史は大きく変わるはずだった。
場所は
本能寺
そこに滞在しているのは
天下布武を進める男。
織田信長
供はわずか。
数百ほど。
そして近くには一万三千の軍勢。
率いるのは
明智光秀
異変の始まり
その日の夕刻。
京の港に
一隻の南蛮船が入った。
里見の商船である。
船を預かる商人は
信長の家臣へ急ぎ伝える。
「至急、信長公へ」
文が渡された。
そこには短い言葉。
明智の動き
きわめて不審
軍勢が西へ向かわず
京へ接近
その文を書いたのは
里見の軍師。
桜。
桜は交易のため
西の情勢を常に集めていた。
その情報網の中で
奇妙な動きがあった。
明智軍の進路。
中国地方へ向かうはずの軍が
京へ戻っている。
桜の脳内戦略会議が動いた。
(これは……)
(中国援軍ではない)
(目的は……信長)
桜は迷わなかった。
「すぐに送って」
「京へ」
信長の直感
夜。
信長は酒を飲んでいた。
家臣が文を差し出す。
信長は読む。
そして笑った。
「面白い」
家臣は驚く。
「何がでございます」
信長は立ち上がる。
「光秀か」
しばらく沈黙。
信長は窓の外を見た。
「備えよ」
家臣は驚く。
「え?」
「本能寺を出る」
信長は言った。
「もし違えば笑い話だ」
「だが」
信長は笑う。
「当たっておれば天下が動く」
本能寺の夜
その頃。
明智軍は進んでいた。
兵たちは言う。
「敵は本能寺」
光秀は静かに呟く。
「敵は本能寺にあり」
しかし。
本能寺に到着したとき。
光秀は異変に気づく。
静かすぎる。
門を破る。
兵が走る。
そして報告する。
「殿!」
「信長がおりません!」
光秀は絶句した。
信長の脱出
信長はすでに京を出ていた。
向かったのは堺。
そこには
里見の南蛮船が停泊していた。
信長は甲板に立つ。
「これが南蛮船か」
巨大な船。
信長は笑う。
「なるほど」
「天下を変えるのは刀ではない」
「船と金だな」
そして信長は言った。
「桜」
「面白い女だ」
光秀の絶望
京。
明智光秀は呆然としていた。
信長が死んでいない。
これは致命的だった。
各地の大名が動かない。
「謀反成功」の前提が崩れた。
家臣が震えながら言う。
「どうされます」
光秀は言葉を失った。
秀吉の反応
その頃。
備中。
豊臣秀吉
の元に知らせが届く。
「明智が謀反」
「だが信長は生存」
秀吉は大笑いした。
「ははは!」
「光秀、終わったな」
桜の脳内戦略会議
里見。
桜は報告を聞く。
信長生存。
明智失敗。
桜は小さく息を吐く。
(これで)
(西は安定する)
だが桜はまだ考えていた。
(問題はここから)
信長が生きている世界。
それは歴史が大きく変わる。
桜は空を見る。
(戦の終わり)
(少し近づいたかな)




