202話 上杉の行政改革、開始
春日山城。
上杉謙信は軍議ではなく、政議を開く。
掲げた柱は三つ。
一、私闘禁止令の徹底
関東諸将間の無断出兵を禁じる。違反は即時裁定。
二、兵農分離の段階導入
通年動員を縮小。農繁期の徴発制限。
三、兵糧備蓄三年計画
各国に最低備蓄基準を設け、里見海運と連動。
これは戦略転換だ。
「勝つための軍政」から
「持たせるための統治」へ。
家臣団は戸惑う。
だが連署状が後押しする。
東は、もう疲れている。
――里見家評定――
安房。
里見義堯は重臣を集める。
結論は明確。
「上杉が秩序の軸となるなら、我らもその一員とする」
形式上の従属ではない。
東安定構想への参加。
兵糧・海運・南蛮交易網を供出。
まな姫も賛同する。
「海は橋になれます」
桜は深く頭を下げる。
覚悟は既に決まっている。
――北条への説得――
問題はただ一つ。
北条氏康
東最大の現実勢力。
放置すれば必ず衝突。
謙信は言う。
「まずは理で説く」
だが使者を誰にするか。
沈黙。
その時。
桜が一歩出る。
「わたくしが参ります」
重臣が制す。
危険。
拘束の恐れ。
人質化の可能性。
だが桜は退かない。
――桜の論理――
・北条を武で屈服させれば東は再び疲弊
・説得が成功すれば、戦乱は終結に向かう
・失敗しても立場は明確になる
・今動かねば構想は瓦解
「ここが正念場にございます」
感情ではない。
構造上の必然。
――上杉の判断――
謙信は桜を見る。
「戻らぬやもしれぬ」
桜は即答。
「戻らぬならば、それが道にございます」
謙信は目を閉じ、言う。
「行け」
許可。
だが条件付き。
「我は後ろにおる」
武力威嚇ではない。
背後保証。
――北条側の状況――
小田原城。
氏康は既に情報を得ている。
上杉の私闘禁止令
東国連署
里見の参加表明
彼は理解している。
これは「包囲」ではない。
「秩序再編」。
北条の独自覇権を溶かす構想。
氏康は笑う。
「面白い娘だ」
だが彼は甘くない。
北条は実効支配を築いた家。
理念だけでは動かない。
――桜、出立――
海を越え、相模へ。
館山の港で、
まな姫が言う。
「必ず帰ってきてください」
桜は頷く。
帰還は目的ではない。
成功が目的。




