表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『戦国姫の脳内戦略会議』  作者: れんれん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

213/243

193話 義を名乗る者、理を失う者

北条・小田原城。

評定の場は、異様な静けさに包まれていた。

「……越後が、商人を?」

北条氏康の声は低く、抑えられていたが、

その沈黙こそが、家臣たちを萎縮させていた。

「はっ。里見の港を経由し、

 米・塩・油が、通常価格で各地へ流れ始めております」

「……通常、だと?」

一人の重臣が、耐えきれず口を挟む。

「殿!

 これは明らかに策にございます!

 兵糧攻めを“無意味”にするための――」

「分かっている」

氏康は、扇を閉じた。

(兵で圧せぬ相手に、理で先を越された)

(しかも、それを“義”の国が黙認している)

「上杉は、何を考えている」

その問いに、答えられる者はいなかった。

いや――

誰もが気づいていた。

上杉は、動いていない。

だが、止めてもいない。

それこそが、北条にとって最悪だった。

一方、里見城。

桜は、報告を受け終えると、ゆっくりと息を吐いた。

(北条は焦る)

(武田は様子見)

(佐竹は、利益を見て近づいた)

(上杉は――)

桜の思考が、一点に収束する。

(上杉だけが、“判断を先延ばしにしている”)

それは優位でもあり、危険でもあった。

まな姫は、桜の横顔をそっと見つめる。

「……桜」

「はい」

「戦になるの?」

桜は、少しだけ間を置いた。

「“戦を選ばせる状況”には、なりつつあります」

「でも……」

「選ばせないために、私は動いています」

それは、断言だった。

その夜。

桜の脳内で、静かな戦略会議が始まる。

(義を掲げる者は、

 義を満たす場を奪われると、怒る)

(ならば)

(怒る前に)

(義を実行できる舞台を与える)

桜の思考は、地図のさらに外へ向かう。

(越後だけでは足りない)

(“義の観客”が必要だ)

(第三者)

(しかも、武でも商でもなく――)

桜の脳裏に、ある名が浮かぶ。

(朝廷)

(公)

(正統性)

桜は、思わず笑ってしまった。

(戦国で一番怖いのは)

(兵でも、金でもなく)

(正しいと認められること)

同じ頃、春日山城。

上杉謙信は、使者からの報告を聞き終え、しばらく黙していた。

「……里見は、兵を動かしていないな」

「はっ」

「だが、民は救われている」

家臣が、慎重に言う。

「殿……これは、義に反するとは言えぬかと」

謙信は、ふっと笑った。

「そうだな」

「だからこそ――」

謙信は立ち上がり、空を見上げた。

「だからこそ、

 このままでは済まぬ」

(義を語る者が二人いれば)

(必ず、どちらかが問われる)

(桜)

(おぬしは)

(わしに、何を選ばせたい)

里見城、夜明け前。

桜は、灯りの消えかけた部屋で、一通の文をしたためていた。

宛名は――

京。

(次は、戦場ではない)

(議と理の戦いは)

(“言葉の都”へ移る)

筆を置いた瞬間、

遠くで、城太鼓が鳴った。

新たな使者の到来を告げる音。

桜は、立ち上がる。

(間に合え)

(均衡が崩れる前に)

物語は、

静かに、しかし確実に、

次の段階へ踏み込んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ