閑話 まな姫の幸せの瞬間
里見義堯の承認を受けた後、城内では婚姻に向けた準備が静かに進められた。
桜は、これまで通り影から全体の調整を行う。
書類や日程の確認、家臣への役割分担、そして外部への形式的な連絡まで、全ての段取りを一手に取り仕切る。
まな姫と悠真も、少しずつ城内での共同作業に慣れ、互いの存在を自然と意識するようになる。
高橋忠清は息子の悠真に向かい、落ち着いた声で言った。
「悠真、まな姫殿のため、そして里見家のために誠意を尽くすのだぞ」
悠真は深く頷き、心の中で固く誓う。
(まな姫殿を支える。どんな困難も共に乗り越える――それが自分の役目だ)
まな姫は、父上や桜の助言を受けながら、少しずつ緊張を解いていく。
(……これから先、私が歩む道も、悠真殿とならきっと大丈夫……)
そして婚姻の日、城の大広間は装飾が整えられ、家臣たちや関係者が揃う。
まな姫は美しく着飾り、控えめに微笑む。
悠真も正装に身を包み、誠実な表情でまな姫の方を見つめる。
義堯は堂々と二人を前に立たせる。
「本日、まな姫と高橋悠真の婚姻を、里見家として正式に認める」
家臣たちは深く頭を下げ、祝意を示す。
桜は少し離れた場所から静かに見守る。
(……長い間、計画を練り、双方の気持ちを守ってきた……ついに、この日が来たのだ……)
まな姫は悠真の手にそっと触れ、目を合わせる。
悠真は微笑み返し、軽く頭を下げる。
大広間には、静かだが確かな祝福の空気が漂う。
両家の家臣たちの温かい視線が、二人を包み込む。
式は厳粛でありながら、どこか穏やかな喜びに満ちていた。
桜は心の中で、これまでの努力と計算が双方の幸福に結実したことを静かに噛み締める。
(……これで、里見家の未来も、まな姫と悠真の未来も、守られた……あとは二人が自分たちで歩む道……)
大広間の扉が開かれ、外に集まった城内の人々から祝福の声が上がる。
まな姫は初めて心からの笑顔を見せ、悠真もまた、その笑顔を優しく見つめる。
二人の手は、もう離れないことを互いに確認したかのように、しっかりと結ばれていた。




