閑話 運命の瞬間
里見城の大広間。
家臣たちは一列に並び、静かに座る。
空気は張り詰め、誰もが殿の一言を待っていた。
里見義堯は威厳を保ちつつ座し、桜は脇で資料を手に控えている。
「……諸君、まずは報告がある」
義堯の声が響く。
「北条殿との婚姻同盟の話だ」
桜は静かに義堯の隣に立ち、低く報告する。
「殿、まな姫の意思を確認することが必要かと考えます。これまでの婚姻は形式上のものに過ぎず、まな姫の意思は反映されていません」
義堯は目を細め、まな姫を見据える。
「まな姫よ……そなたはこの婚姻をどう思っているのか?」
まな姫は一瞬うつむくが、深呼吸し、家臣たちの前で口を開く。
「……父上、私には、心を寄せているお方がおります。北条殿との婚姻は、どうかお断りさせてください」
大広間が静まり返る。
義堯は一瞬目を見開き、そしてゆっくりと激昂の演技を見せる。
「何と……! それは許されぬこと……! 誰である! 里見義堯の前に出て、申開きをせよ!」
まな姫は少し驚きつつも、覚悟を決めて目を逸らさずに悠真を見た。
悠真は静かに立ち上がり、義堯の前に歩み出る。
家臣たちは息を呑み、その様子を見守る。
悠真は頭を下げ、落ち着いた声で言う。
「里見義堯殿……まな姫に心を寄せる者として、私の誠意を申し上げます。まな姫を支え、共に歩み、守る覚悟でございます」
義堯の視線は鋭く、しかし悠真の瞳に真摯さを見て、少し揺れる。
悠真はさらに続ける。
「不敬にあたるなら、どうぞいかようにも処していただいて結構です。しかし、私の気持ちは真実でございます」
大広間は再び静寂に包まれる。
家臣たちは互いに視線を交わし、まな姫は胸の高鳴りを抑えつつ悠真の背中を見つめる。
桜は傍らで静かに頷く。
(……ついに、双方の気持ちを公に示した……これで、未来の道が少しずつ形になる……)
義堯は深く息をつき、家臣たちに向き直る。
「……よかろう、青年よ。そなたの誠意は届いた。だが、これからもまな姫を守る責任を忘れるな」
悠真は頭を深く下げ、まな姫は小さく安堵の息をつく。
城内には、初めて互いの心が交わった静かな確信が漂った。




